4.11.2012

何故《パタゴニア》を着るか

■『創世記』当初の状況に立ち戻り、本当は服など着ないで過ごせたら一番よいのだが、そうもいかないので・・・死ぬまで毎日何を着るか? は、必然的に人生の一大事である。

先週渋谷のイヴェントでも、それに関してちょっとしゃべった必見ドキュメンタリー映画『END : CIV』は、一部環境保護団体と“エコ企業”の偽善性をこき下ろしている。両者は結託し、〈地球にやさしい……〉の呪文で消費者を催眠にかけ、「エコでロハスでソトコトなワタシ……」に自分でうっとりし続けるための商品をガンガンに売り続けて儲ける。つまり〈地球〉だろうが〈自然〉だろうが何だって金づるにして、どうしたって大なり小なり自然破壊に繋がる製品を、これを買えば自然が守れるかのような錯覚を与えながら、作り続け、売り続けていく連中のやり方を批判している。

ぼくは《パタゴニア》だってそのそしりを完全にかわせる会社だとは思わないし、そもそもこの会社の作るものが大好きで着ているというよりも、環境問題やスウェットショップ問題を気にし始めて以降、何か着るものを買う際には、世のファッション・ジャーナリストのお褒めの言葉を気にするよりも遥かに、世界の人権保護団体から糾弾される企業名に注意するようになった結果として、相対的に、このブランドに一定の信頼を置くようになっただけだ。

ぼくは《パタゴニア》のすべてを知っているわけでは当然ないし、この企業が語ることを100%信じる確証だって持ってはいないが、しかし、すべての服飾メイカーが直面している環境と工場労働者の人権に関する問題を自ら進んで説明し(それは消費者に対する啓蒙である)、それぞれに対する考え方や取り組み方を(ここまで)つまびらかにする態度は、それ自体でかなり希有な社会運動体を為すものであって、そこだけでもこのブランドには価値があると考えている。
原稿を書いたり、仕事の調べものをする際に服飾メイカーのホームペイジを見ることがたまにあるが、世の服飾メイカーは、〈利潤の追求と、自然や人間に対する配慮の両立〉というポイントにおいて、“パタゴニアのやり方を意識している会社”と、“パタゴニアのやり方について知らないふりをしている会社”とに大別できるのではないか、とさえ感じる。そのくらい、《パタゴニア》はこの業界の中で、ひとつのあるべき基準を身をもって提示していると思う。

もちろん捕鯨する人やクジラを食べる人にとっては、《パタゴニア》がシー・シェパードの支援企業だったことが分かって、この企業に怒りの矛先を向けたわけだし、シー・シェパードについてはイルカ問題(映画『ザ・コーヴ』)もあった。が、捕鯨やイルカ漁の是非に対する考え方も、一体、獲る方とそれを止める方のどっちの行為がより暴力的なのか? という問いについても、(『END : CIV』が物議を醸すこと自体で証明されている通り、)意見はことを見る立場によって対立する。生物学的問題と、倫理の問題を併慮したぼく自身の考えが今もまとまっていないのでここで自分の意見は書けないが、少なくとも《パタゴニア》が企業としての考え方を声明(http://goo.gl/hHHlR 〈5.4.2 シーシェパードとの関係〉の項参照)として発表したことが、ぼくにはこのメイカー・ボイコットの理由にはならない。いち企業が、現状では意見が対立して当然だと思われる問題の片方に与したことが批判の対象になるのなら、もっと人道的に問題があることが明白なスウェットショップ問題、イスラエル政府支援問題、フェアトレード軽視問題に関して長らく俎上に上ってきた《ナイキ》や《マクドナルド》、《スターバックス》の店内からはひとりもお客さんがいなくなっているはずだろう。さらには、着るものに関わらず、大手企業の製品など何ひとつ買えない状況になり、こっちの生活がままならない状態にすらなるだろう。

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修理に出していた《パタゴニア》のジャケットが先日宅急便で戻ってきた。社員がサーフィンするためだろう、同社の日本支社は鎌倉にあり、〈リペアサービス〉のセクションも同所にあるのだが、修理が遅れていることの詫びや、修理の担当者が現物を見たあとの所見を元にした修理方法の再提案などで、窓口になっている渋谷の直営店から4回ほど電話連絡がきた。ぼくの場合の修理は無料でやってくれる範疇のものだったが、タダにも関わらず随分と丁寧な対応の末に鎌倉から直送されてきた宅急便の袋がこれだった。



鎌倉のお菓子屋さんの袋である。袋は、はがさなくても再生紙原料としてリサイクル可能なガムテープで封がしてある。

《パタゴニア》のお店で買い物をしたことがない人は知らないだろうけれど、あそこには通常のブティックのように、ロゴがデカデカ入った(帰路、企業宣伝を請け負わなくてはならない仕組みの)商品を入れるバッグがない。それはすぐにゴミとなる無駄なもの、という考えから、買った商品は基本的に裸で手渡される(買い物時にそれを入れるバッグ、カバンなどを持っていない人のために、100%再生原料の持ち帰り袋が現在100円のデポジット制で用意されている)。

そんなこの“一流ブランド”は、〈リペアサービス〉から戻ってくる荷物の袋も廃物利用なのだった。うーん、ここまで徹底しているとは。

……あのさあ、そういう小技も戦略なんであって、オマエ、騙されてるんだよ、と助言してくれる人もいるだろう。強硬なアンチ・パタゴニア派の人がいることも知っている。もう一度書くが、ぼくは《パタゴニア》が大好きで着ているというわけでもない。そもそも着るものに対してさして興味がないのだが、何かを着なくてはならないなら、なるべく地球を汚さず、精神的にも気持ち悪くないものを着たい。で、少々高価だけれど、機能もよく、サーヴィスもよく、企業ポリシーに賛同でき、それが明快で筋が通っており、これまで接した従業員がみんな感じがよく、身近で買えるものとして、事実上かなり消去法的に《パタゴニア》リピーターになっているのであって(といっても買い物するのは何年かに1度に過ぎないが)、このブランドをファナティックに愛好しているのとは違う。
アメリカでの価格より日本での売価は随分高かったりするそうだし(日本の店舗家賃とか人件費などのコストのせいか?)、《パタゴニア》なんかやめろ、アンタみたいな人にはこれよりもっといいブランドがあるよ、という方は、この画面右〈詳細プロフィールを表示〉内の〈メール〉よりメイルにてご教授下さい。よろしくお願いします。

長々書いたけど、いずれにしても、社長が世界の長者番付の何位に入ったとか、まだまだ成長し続けます、などと荒くした鼻息だとか、どこそこに派手に出店するとかで話題になる会社よりも、こういう捕鯨問題や、鎌倉の和菓子屋の袋や、ガムテープやデポジット制の持ち帰り袋のことで“ものごと”を考えさせる会社の方が、ずっと話題にする意味・価値があると思うんだよね。そこに賛否があることも含めて。

つーか、実は今ひとつ《パタゴニア》で欲しいヤツがあるんだけど……高くて買えねえな……。