■03月25日、好事家としては、ちょっと楽しみにしていたソウル・ヴォーカル・トリオがデビューした。その名は《Vigon Bamy Jay(ヴィゴン・バミー・ジェイ)》。アルバム・タイトルが「Les Soul Men」というベタさで、それにこの宣材写真じゃ、老いらくによる『Les Soul Men』という名の青春再生映画のポスターに見えちゃうのだが、これ、3人とも歴としたフランスのソウル・シンガー。
その3人が組んで制作したアルバムが、またソウル〜R&B名曲集という、これまたぞっとしない“売らんかな”企画。レコード会社が昔のグループを再結成させたり、ベスト盤、企画盤を乱発してなんとか食いつながなくちゃならない苦境は世界共通だ。
でも逆に考えると、この3人は、そういう企画を立てれば売れるだけの人気者、ってことなんだが、この中にぼくが前々からちょっとファンだった男がいて、こんな機会ではないと彼のことを紹介することもないだろうから、同好事家のために手短かに。
ぼくが好きなのは一番左の黒眼鏡の男ヴィゴン。彼は1945年にモロッコはラバで生まれた。現在67歳。モロッコ生まれのソウル・シンガーってわけだ。
で、彼の凄いところは15歳くらいでその歌唱力をパリで認められ、《バークレー》からレコードを出し、その後、ボ・ディドリーやオーティス・レディング、スティーヴィー・ワンダーやローリング・ストーンズのパリ公演の前座を任され、遂にはモロッコ生まれの18歳仏人歌手として、当時の《アトランティック》と契約するにいたったことだ。
その60年代の彼の人気を決定づけたといわれるヒットが、ボブ&アールの「Harlem Shuffle」のカヴァー。
これが1967年のパリ。当たり前だけど、“イェ・イェ”ばっかりじゃなかったのだ(実はR&B指向のフランスの歌手はたくさんいた)。
ローリング・ストーンズがこの曲のカヴァーをシングルでリリースしたのが86年だから、そのおよそ20年前のことになる。で、フランスでは、ストーンズの(ボビー・ウォマックがコーラスで参加してるという)あの名カヴァーを聴いたときに、みんな「あー、ヴィゴンのアレね」と言ったというくらい“ヴィゴンの曲”なのだ。それに60年代に、パリ公演の前座でヴィゴンが歌う「ハーレム・シャッフル」を、舞台袖でストーンズの面々が聴いていたかもしれないしね。
そして、これは同じくヴィゴンがそこから約45年後、TV局〈カナル・プリュス〉の特番で歌った現在の(!)「ハーレム・シャッフル」だ。
リード曲は、これまたベタなモーリス・アルバート「Feelings」のカヴァーなんだけど、ダメだ、ベタすぎて単純なオレはまんまと持って行かれる。腹を見せて寝ころんでしまう。(少なくともこれ↓は大画面でどうぞ! 音も素晴らしいし、映像も美しい。ニュー・ヨーク、ロンドン、パリと、3大都市で色男が苦悩しまくる壮絶な失恋歌が展開されている)
歌い出しがグアドループ生まれのエリック・バミー、次が今風のパリの若者ジェイがネオ・ソウルの教科書通りに盛り上げたあとに登場する、イカしたオールドタイマー:ヴィゴンのフランス語パートが最高じゃないですか! カフェをかき混ぜながらフランス語でこのシャウトする絵が許される、つう。
おととい発売となったアルバムは、まだ日本ではフィジカルはおろか、ディジタル・リリースの試聴すらできないので、フランスのiTunesミュージック・ストアに行くしかないけど、まあ、ざっと試した感じ、3人のなかなかセクシーないい歌が聴ける。でも選曲はほんとベタ。その苦々しさも楽しさにできる、その意味でも気骨ある好事家向け。