6.09.2010

マニュ・チャオ通信(#17)SMOD


■マヌ・チャオ・ファミリーの最若手、マリのラップ・グループSMOD(スモッド)の3枚目で、インターナショナル・デビュー・アルバムが5月31日、フランス発でリリースされた。
(このマニュ・チャオのHPで、アルバムのリード曲「Ça chante」の"Radio Edit"が聴けます)

去年の秋のマニュ・チャオのツアーの前座として一緒に回っていたのはこの布石だったわけで、それによって欧州、特にフランスではそれなりに認知され、かつマニュ・チャオの全面プロデュース作という話題性の威力は絶大だから、きちんとマスに待たれていたアルバムだった。

マニュ・チャオのファンなら、彼のプロデュース作品として2004年にリリースされたアマドゥ・エ・マリアムの大傑作『Dimanche à Bamako(バマコの日曜日)』をこれまで繰り返し聴き込んできたことと思う。このSMODのメンバーは、Sam(サム) Ousco(ウスコ) Donski(ドンスカイ)の3人だが、そのサムこそが、アマドゥ&マリアムの息子だ。


2003年に『ディマンシュ・ア・バマコ』のレコーディングのためにマリを訪れていた宵っぱりのマニュ・チャオは、早い時刻に寝てしまうアマドゥ&マリアムとは夕食後は仕事ができず、その空いてしまった夜の時間を使って2人の息子サムのグループのレコーディングにサジェスチョンをしてやっているうちに、彼らに対して、「そうだ、サムのママとパパが寝てる間に2人の今度のアルバムのために曲を書いて、明日の朝2人を驚かしてやれよ、手伝ってやるからさ」という提案をする。それで3人は「Politic Amagni(ポリティック・アマニ=Politic is no good)」という曲をチャオと共同で書き上げ、それがアマドゥ&マリアムに気に入られてバッチリ『ディマンシュ・ア・バマコ』に収録されたばかりか、その曲のレコーディングにはコート・ディヴォワールのレゲエ・スター(だが、自国政府を批判するあまり、身の危険があって国に帰れず、隣国マリにスタジオを造って暮らしている)ティケン・ジャー・ファコリーまで参加して、結果そのアルバムの素晴らしいハイライトのひとつになった。もちろん、作者のSMODの3人もコーラスで参加している。

マニュ・チャオとはそれ以来コネをもったSMODだが、このフランス初紹介作は、そのアマドゥ&マリアムのアルバムに使われていた“トラック(コード進行)”も出てきて、つまりいつもの“ジャマイカン・スタイル”のマニュ・チャオのリサイクル手法もチョロッとは出てくるものの、それ以上にSMODの特徴であるアクースティック・サウンドのオケとラップのコントラスト、そこに加わるマリの伝統的なマンディング音楽的な歌唱と音色がうまい具合にミックスされた彼らのオリジナルなカラーが前面に出た、ポップでカラフルでかつピリッとした刺激のある、ひとくち30回の噛み応えのある仕上がりになっている。当時既にスターだったアマドゥ&マリアムに対してマニュ・チャオが自分の色を思いっきり出し、(かつ自分でもコーラスどころかリード・ヴォーカルまで取って)ほぼ合作風に作り上げた『ディマンシュ・ア・バマコ』とは異なり、若い奴らを必要以上に自分の色に染めないように留意してプロデュースしたマニュ・チャオの分別ある優しい叔父さん風の仕事具合がいい。抑制が利いているけど、ああ、これはマニュ・チャオの音だよな、技だよな、っていうディティールが随所で光っている。

マニュ・チャオとサム(CDブックレットより)

オレがパリでおととし観たマニュ・チャオのショウの前座だった(で、それ観てブッ飛んだ)マルセイユのアナキストの女の子ラッパー(アルゼンチン系フランス人)ケニー・アルカナが1曲客演してて、その「マイクなんか怖くねえ」がガツンとハード・コアで、またいいアクセントになっている(これ以上書くと、雑誌のレヴューで書くことがなくなって原稿料が入らなくなるからこのへんで止めとくが・・・もう、遅いかもしれん)。

ところが、である。発売日の5月31日になってもタワーレコード・オンラインでも、HMV ONLINEでも、Amazon.co.jpでも、このアルバムがオーダーできなかったのだ。普通は現地発売日の少し前から〈予約可〉になってるはずだが、3社とも、ウェブ・サイトに〈SMOD〉のペイジ自体が存在しない。「そんな人、いません」扱いなのだ(今現在もその状況は変わらない)。マニュ・チャオ全面プロデュースなのに、だぜ。勘弁してくれよ! ということで、しょうがないのでフランスのAmazonに注文したら、1週間でサクッと届いた。ギリシャ危機によるユーロ安もあるんだけど、送料、飛行機代込みで〈JPY 3,057〉。メンバー無駄に5人もいて、オンリー・ワンなマグロ・ユニゾンの〈SM**〉のCDより安いんじゃね? 
日本のレコード屋がこんな調子だと、菅ちゃんには悪いけど、オレ、内需拡大に協力できねえな。