6.15.2010

ワールド・カップは楽しく、苦い(、が、楽しい)


■ワールド・カップについては、語られるべきことがたくさんある。当然このこともだ。

繰り広げられる試合自体は楽しいのだから、それを観て純粋に楽しめることも生きていく上での才能だ。昨夜のカメルーンvs日本もよかったし、先日のガーナvsセルビアはもっと楽しかった。しかし、こうして試合と舞台をセット・アップして世界中を一ヶ月間興奮させる巨大イヴェントが、どんな人間たちによって仕組まれていて、その裏側にどんな事実があるのかも併せて感じ取らなくては、ワールド・カップを真に“味わって”いることにはならない。

オリンピックのときにも書いたが、演出された世界の“UNITE”や“感動”をビジネスにするものは、よくよく注意しなければならない。ましてや、サッカーという楽しい競技がその売り物である場合には、なおさら冷静になって注意したいと思う。自分は純粋にサッカー競技“だけ”を愛するサッカー・ファンだから、試合以外のことには興味がない、という人がいたら、それはこの場合、言葉は悪いが、“かなり共犯に近いカモ”である。

オレは、だからといってWCを(つまり大会の表向きの意義と、実際の競技、選手、サポーターを)頭ごなしに無視するなり、“flush”してなきものにする気には全然ならない。大好きではないまでも、サッカー観戦の面白さをまあまあ会得したせいで、オレもこの目で試合を観たいのだ。それと同時に、この大会が楽しいものと許せないものとが一体化して成立しているものだという点を直視し、そこから学ぶ機会であることも忘れないようにしている。
仮に自分ひとりがWCを無視しようと、日程は予定通り進行していくし、もうとっくの昔にすべての契約書にはサインされている。世界中が観戦をボイコットするならば大会は当然成り立たないが、これがサッカーである以上、それは不可能だ。世界中のかなりの数の人間にとって、サッカーは大切なスポーツなのだから。ならば、なおのこと、世界を動かしている資本主義のシステムの実体と問題を世界中で同時に考える好機でもあるはずだ。世界大会の楽しさはそのまま保ちながら、政治的、経済的に“コレクト”な運営のオーガナイゼイションに変えていくにはどうしたらいいのか? ということを、である。

無論、その“世界大会”の楽しさが、ユニフォームに国旗をつけ、両国の国歌斉唱から始まる“国vs国”の試合ゆえのものであるという事実を直視するのも、オレとしては少なからず苦々しい気分を伴う。日本だのアルゼンチンだのという国には興味なく、日本チームや、今の弱っちいフランス・チームが結構好きなのだ、なんていう“弁明”にどこまで正当性があるのだろう? という湿った自問である。毎回外国に行くときに、菊紋の付いたJAPANのパスポートを使わずに密航する勇気がない自分を情けなく思うのと一緒だ。が、その反面、その日本国のパスポートでスイスイいろいろな国に行けて、いろいろな“ゲットー”を訪ねられたことがアナキズムの重要性に気づく大きなきっかけになったこともまた事実だから、考え方の両極のどちらか一方に安易に、盲目的にしがみついている場合ではないのである。ワールド・カップの美点と偽善についても、そのどちらもきちんと見える位置にいたいと、オレは、思う。

先日のフジテレビ『とくダネ!』では、ジョハネスバーグのゲットー:ソウェトの様子も一瞬レポートされていた。そこの腐食したトタン板ハウスに暮らし、テレヴィ受像機も持たず、すぐ近くで行われていた自国チームの開幕試合すら目にする術がなかった女性の、「試合は観られないけれど、このWC効果で国の経済が活性化してくれることを願っている」という切実な声を報じていた。それが、大会のダーク・サイドをほんの一瞬であれ伝えて過熱報道とのバランスを取ろうとしたフジテレビの意図だとしたら決して無意味ではないだろう。が、しかし、本文冒頭のリンク先↑の告発文を読んでみれば、そうして日本の大メディアの高視聴率番組が報じたのは、南アフリカの報道が南ア市民に対してWC開催にまつわる問題の真実を伝えていないという事実なのだ。なんとも皮肉な茶番ではないか。
まだ未聴の方がいたら、このペイジ右上の〈ジョハネスバーグ便の看板〉をクリックしてギル・スコット=ヘロンの歌を聴いてみて欲しい。まさに、「ジョハネスバーグで何が起こってるか知ってるかい? ニューズ報道なんてあてにならないんだぜ」という歌だ。

いずれにしても、昨日の松井はかっこよかったね。もちろん本田も、そして大久保もキレてるし、逆に、相変わらず一見トロそうにしてても常に味のある場所にいる遠藤こそ、やっぱりオレにとってはゲームを観るときの目の支点だった。
とはいえ、次の土曜日のオランダ戦の時間には友川カズキを聴きに行こうと思ってるんで、結局はその程度の日本チーム好きなんだけど。