■前にも書いたが、この人の名前は日本では《マヌ・チャオ》と表記されることが多い。彼は今はバルセロナに拠点を構えているが、スペイン系フランス人としてパリ郊外で生まれたので、その出自を根拠にぼくはフランス流に表記している。いうなれば、日本生まれの日本人の漢字名を中国語読みにはしないだろうという単純な発想だが、当のチャオ本人は、自分のことだと分かりさえすれば、どんな音で呼ばれても気にするような人であるはずがない。もっとも、このブログで肝心なのは、ぼくは《マヌ・チャオ》ではなく《マニュ・チャオ》と書きますよ、と書くことで、どっちの表記で検索した人もヒットしてくれることだ。
本題:去年から始まったマニュ・チャオの久しぶりの世界ツアー《Tombola Tour(福引きツアー)》のパリ公演を見に行こう、という計画がぼくの回りで持ち上がって以降、ぼくはその仲間に対して《マニュ・チャオ通信》という不定期メイル通信を行ってきた。フランスから発信されるマニュ・チャオ関連の興味深いニュースをキャッチするごとにみんなにCCメイルで配信し、ここまで9号を数えたが、今後はその《マニュ・チャオ通信》をここでオープンにしようと思う。
まず目下一番のニュースは、もうすぐ発売されるニュー・アルバムについて。これは《マニュ・チャオ通信(#09)》で仲間のコア・ファンにはメイルにて既伝。
タイトルは『Baionarena』。
このアルバムは上述した現在も続行中の《Tombola Tour》から、スペイン国境のフランスはペイ・バスク地方(ピレネー=アトランティック県)の都市、バイヨンヌでの公演を収録した2時間半に及ぶライヴ・アルバムだ。CD2枚組にDVDもセットになっている。
2007年に最新スタジオ録音盤『Radiorina』をリリースした際に彼は、「もう今後はCDというフォーマットでは作品をリリースしないだろう」という声明を出していた。CDを製造/流通させるためのコストが売価に反映され、それが“非富裕層”の世界中のファンに対して“高額”になってしまうことを避けたいという思いからのチャオらしい発言だったが、今回のようにツアー内容をなるべく完全に近い形で届けるライヴ盤は、やはりインターネット配信という形には馴染まないと踏んだのだろう。また、映像もつけるとなれば、どうしてもCD+DVDというパッケージ商品の形を取らざるを得なかったのだと想像する。
去年の6月に2日連続で見たパリ公演は、本編だけで3時間に及び、1度終演したあとで、さらに久しぶりの本国公演ということもあって、2004年の全曲フランス語の絵本つきアルバム『Sibérie m'était contéee』のナンバーをフランス・ツアーだけ特別に30分以上歌うというオマケまでつけ、全体で3時間半以上も続いたのだった(そうなると当然メトロの終電がなくなるが、その後も午前2時まではDJが座を持たせ、観客は会場で踊り続けることができ、帰りの“足”に困るような地方都市では、会場から深夜バスのターミナルまでの無料バスまで手配されて、それでチケット代は今のレートで4000円弱だった。大スターのライヴ・ショウらしからぬその破格の価格設定について仏メディアが訊ねると、マニュ・チャオは「それでも充分にもうけは出る。コンサートは庶民の娯楽なのに、世のアーティストはみんなチケット代を高く設定し過ぎる」と、これまた彼らしい発言をしてコマーシャリズムに過度に支配された音楽業界を挑発した)。
とにかくこのライヴ盤は、本編で3時間やったツアーの公演を2時間半に編集したわけで、それでも一部はカットされているわけだが、そこにDVD(の収録時間は不明)もついているのだから、このスケールの大きさに対して、ファンは文句をつけるどころではないだろう。
彼のオフィシャルHPでは今日現在も9月発売となっているが、最近、フランスでのストリート・デイトは8/31だと発表された。日本でも9月の上旬には入手できるだろう。ちなみに仏大手量販店フナックのサイトでは、売価は19.99ユーロ(約2,700円)となっている。
この夏の、他のマニュ・チャオ関連の話題をいくつか。
6月にはフランスでチャオの最新バイオ本が発売され、ファンの間でちょっとした論争を巻き起こした。
この本『Manu Chao le Clandestino』(Pylône出版/“クランデスティーノ”はチャオの初ソロ作のタイトルだが、密航者、地下潜行者、不法滞在者といった意味)はフランスの“パンク作家”アンディー・ヴェロルが書いたもので、そもそも著者は自分がチャオのファンでは“なかった”ことを言明し、チャオのやり方の様々な点に難癖をつけるような書き方をしていることから、チャオの狂信的なファンはこぞってこの“悪書”をバッシングしたのだ。例えば、“オレがマニュ・チャオの財布を持っていたら、おそらくマニュ・チャオのバイオグラフィーなど書かなかっただろう”という挑発的な書き出しからして既に、ナイーヴなエンスージアストが頭から湯気を噴きそうなトーンなのだ。
しかし、まだ半分しか読み終わっていないので断言はできないものの、この本はそれほどファンが腹を立てる必要などないどころか、著者の独特の皮肉センス・・・それは心根の優しさを“歪んだ”形でアウトプットしてしまうパンクスの性のようなものだ・・・がむしろ快く感じられる部分も多く、ましてや著者がプルードンを引き合いに出し、サパティスタのマルコス副司令官(彼はマニュの親友である)を暗にチャオになぞらえているところなどは非常に好感さえ持てる。
総じて、親からもらった小遣いでこの本を買ったような若い純朴なファンを激怒させることなど最初から織り込み済みとして書いている、クセとホネがあって読む価値のある面白い本なのだが、・・・ただし、まだマニュ・チャオのバイオが1冊も邦訳されていない日本で最初に邦訳出版するには、上記の理由から言って、不適格な本だろう。)(追記・・・読後の感想としては、いや、これはやはりいいバイオです。余計なことが書いてなくて、マニュのファンなら知るべきことが過不足なく書いてある本のように思います)
別の話題。先週新宿のCafe★Lavanderiaで大音量で聴かせてもらって欲しくなった、ラジオ・チャンゴの最新コンピレイション『V.A. / Radiochango Añejo Reserva 7 años (2CD)』(マニュ・チャオ「Politik Kills」の別リミックスも入っている)も、東京の優良レコード店で在庫している。
Cafe★Lavanderiaのマスターも贔屓にしている大洋レコードや、Tokyo No.1 Soul Set の渡辺俊美さんのブティック ZOOT SUNRISE SOUNDS などのことだが、もちろん通販でも買える。
バルセロナの混血ストリート音楽文化を代表するラジオ・チャンゴ・コレクティヴのファンであれば、本家のスペイン語サイトを日本語化するという素晴らしいプロジェクト《Radiochango にほんご化計画》をご存知だろう。つまり、ここからはバルセロナ発の情報がダイレクトに得られるわけだ。
そこではマニュ・チャオのドネイション・プロジェクト『Viva La Colifata』の情報も日本語で読める。ブエノスアイレスの精神科病院から放送した、患者のためのラジオ《Radio la Colifata》を支援するための慈善プロジェクトで、彼の音源の上に医師や患者の声をちりばめたその『Radio la Colifata』は、ファンなら必聴の音源。彼の活動を知り、賛同するファンは寄附にも協力してはどうか。
最後に、このブログは在仏邦人も何人か読んでくれているが、みんな行ったほうがいいよ、今年の《フェット・ドゥ・リュマ(ニテ)》(9月11~13日)。
これは94年までフランス共産党機関紙だった新聞『l'Humanité(リュマニテ)』が主催し、毎年9月の第2週末の金・土・日の3日間、パリの北東郊外で行われる巨大な、感じがよくて、すごく楽しいお祭りだが、今年はそこにマニュ・チャオが出る。世界中の国のブースで各国のことを知ったり、名産品が買えたり名物料理も食べられるような、とにかく偏狭な右翼思想の持ち主は誰も来ないギガ・パーティーだけに、そこでもマニュのショウが盛り上がらないはずがない。他にもキザイア・ジョーンズ、ディープ・パープル、アルテュール・アシュ他、左派大物アーティスト多数出演。日本にも《赤旗まつり》があって、ソウル・フラワー・ユニオンが出たりもするけどね・・・ちょっと規模が違う。