8.12.2009

我々は、何をどう聴いてきた、あるいは聴いてこなかったのか?

■8月11日、『ミュージック・マガジン』の創刊40周年記念増刊号、発売。


これは同誌が創刊された1969年から2008年までの40年間のアルバムから、誌上で高く評価された1050作品(!)を編集部がノミネート作品として選出、その中から同誌執筆者がそれぞれ自分にとっての40枚を選んで1位~40位までランキングし、その集計をもとに40年間総合のベスト・アルバム1位~200位までを選んだものだ。


実はその40年を3つの期間に区切り、それぞれにベスト100枚を選ぶ創刊40周年記念企画が今年の4~6月号までの3ヶ月に渡って掲載され、そこでも執筆陣が各アルバムについてのコメントを書いているが、今回の記念増刊には、その既掲載の原稿を一切再録していない。つまり、ここでは40年を通したオール・ジャンルのベスト200のランキングを選び直し、それぞれの評文も総て書き下ろしたものだから、その3号を読んだ読者も、また全くの別物としてこの別冊を楽しむことができる。


執筆陣は、最初それぞれベスト40枚に推すランキング(リスト)を提出する。その全員のランキングを集計したのちに、編集部が、各執筆者にどのアルバムのコメントを依頼するかを決める、という方式なので、原稿の依頼が来るまでは、自分が選んだ40枚の中からどの作品について原稿を書くことになるのか全く分からない。


ちなみに、ぼくが4~6月号でレヴューを依頼されて書いたアルバムは以下のようなものだった。


4月号(ベスト100アルバム:1990~2008年編)

マニュ・チャオ『ブロシマ・エスタシオン・エスペランサ』

レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン『レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン』


5月号(同1980~1989年編)

ダーティ・ダズン・ブラス・バンド『ヴードゥー』

マリア・ベターニア『12月』


6月号(同1969~1979年編)

ザ・ローリング・ストーンズ『レット・イット・ブリード』

ジョルジ・ベン『アフリカ・ブラジル』

ボブ・ディラン&ザ・バンド『偉大なる復活』


そして上記のアルバムの中から4点が今回のベスト200枚にも入っているが、その4枚は今回別の執筆者がレヴューを書いている。つまり月刊誌とこの増刊号では、同じアルバムを同じレヴュワーが担当しないシステムなのだ。そこで、ぼくはまた新たに以下の5アルバムのレヴューを依頼されて書いた。


ザ・クラッシュ『サンディニスタ!』

カルトーラ『エスコーラ・ジ・サンバの首領第2集(Cartola)』

トム・ウェイツ『レイン・ドッグ』

ボブ・ディラン『激しい雨』

ボブ・ディラン『プラネット・ウェイヴ』


さらに今回、この200枚は総て大なり小なり知られた作品であり、同誌で何度も取り上げられているので、普通に作品を解説するというよりも、そのアルバムとの出会い、当時どのように感じたかなど、個人的な体験を交えた、むしろエセー風に書いて欲しいという注文だった。


これは自分の過去を振り返ることにもなり、書いていてとても楽しかった。出来上がった本を読んでみると、他の執筆者の書いているものも普段読めない調子の文章が多くて非常に面白く、明け方まで貪るように読んだ。そして、絶対にオレには関係ないアルバムだと思い込み、これまで一切聴く気がなかった作品の多くを聴いてみたくなったのには自分でも驚いた。よくある普通の“ディスク・ガイド本”を読んでも、なかなかそんな気分にはならないからだ。・・・これってかなりシロウト臭いコメントだが、でも事実である。


まずは各執筆者の作品への思い入れなどを味わい、そこでその未聴の作品を初めて聴いてみて、長年抱いてきた自分の先入観の確かさのほどを試してみる。そういう作業は、自分のこれまでの音楽の聴き方をかえりみることにもなり、また、その一般評価の定まっている音楽(スタンダード)と向き合うことで、多くの人が評価しているそれを敢えて聴いてこなかったところの自分自身を何かしら見直すことにもなったりする。“未知の逸品”を過去に溯って手にする機会を得られ、また、長らく忘れていたものを取り戻したりできる機会かもしれない。新しい出来立ての音楽を体験するのも刺激的だが、過去の作品、古典とされるものを遅れて発見してショックを受け、その作品の時代を越えた価値、あるいは“時代を越えられない価値”を愛でるのもまた、実に楽しい。


ということで、この『ミュージック・マガジン』40周年記念増刊は、是非みなさんに真剣にお勧めしておきます。夏休みのお供に。・・・詳細はこちら


オレはこれを読んで聴きたくなったアルバムのリストを書き出したので、まずはその中から7~8枚、早速明日にでも買いに行くつもり。ほんと、こういう本は読んで楽しく、買いに行くのも楽しく、それを時間をかけて聴き込むのがまた楽しい。