7.19.2010

壊す会社、直す会社

■下の記事は朝日新聞6月27日の『オチビサン』の隣の記事で、山形県のウェルボンという製本会社が、本を作るだけでなく、壊れた本を直してあげるセクション〈ブックスドクター〉も社内に設けて年間330冊の注文をこなしている、という話だ。〈本好き〉を自認する人は、クリック(拡大)して読んでみて欲しい(この記事もasahi.comでは読めない)。


なかなかいい話だと思った。もう手に入らない、代替のきかない大切な本が手元にあって、でも、ボロボロ。という場合に、多少費用が高くても、自分の手になじんだその大切な本を直してくれるなんていう仕事は素敵じゃないですか。いい靴は直して履くし、いいジーンズは直して穿くし、いい本は直してさらに読み込みたい。そういう生き方がいい。

で、この記事を読んだちょっと前に、家からそれほど遠くないところにある印刷会社で、ちょっと驚くサーヴィスが始まっていたことを知った(で、その会社のウェブ・サイトを読むと、もう既に若干いかがわしい類似業社がいっぱい出てきているので注意せよとまで書いてあってまたびっくり。こういう商売のこと、知らなかったの、オレだけ?)。

それがこれだ。《ブックスキャン(低価格書籍スキャンサービス)》というもので、なんと、350頁以内の本ならたったの100円で中身を全部データ化してくれ、それをPDF書類に加工してメイル添付で納品するか、CD-RやDVD-Rなどに焼いて郵送納品もしてくれる。350頁よりもペイジ数の多い本は、追加200頁ごとに1冊分の料金(100円)を加算する。

1冊あたりさらに100円の追加料金で〈OCRオプション〉を付けると、すべてがテキスト・データ化される。つまり本の中の文章語句を検索できるし、コピー&ペイストできるようになるというのだ。

しかし、ショックなのは、まず必要な代金をカードで先払いし、本をその会社に郵送すると、スキャン作業のために書籍は裁断され、申込者にデータが納品されるとそのバラバラになった本は製紙会社で熔解処分されるというのだ。この株式会社ブックスキャンさんのウェブ・サイトには:

《BOOKSCAN(ブックスキャン)は、書籍を裁断しスキャナーで読み取り、PDF化するサービスです。
本が好きだけど、本棚はいっぱいだし、本をたくさん買いたいのに 場所的に置く場所がなくて困ってる』という方のためのサービスです。》

と、こともなげにあっけらかんと書いてあるが、本というのは紙質の手触りや匂い、表紙、カヴァー、ときにオビまで含む装丁美術の価値も含めてのものだと思うし(じゃなきゃ、それって本じゃなくて、ただのデータじゃん?)、本来「本が好きだ」っていう人の多くは、そこまで全部含めた物体が好きなんじゃないかと思うんだけど。
・・・で、結局、この会社の論理では、問題の元凶は家賃の高さってこと? 家賃が高くて本を置くための充分なスペイスが確保できないから、人間の暮らしから本が消え、物理的な体積を持たないデータが残る。家賃に追われ、暮らしに潤いがなくなり、本は切り刻まれて溶かされる、ってことなのね。
しかしこの会社、日本の出版業界の電子書籍化に相当時間がかかることまで読んでこういう商売やってんの、凄いなあ。“本”を読んでんのかどうかは知らないけど、少なくとも世の中は読んでるってことなんだろうな。
いつかこういうサーヴィスを頼る日がオレにも来るのかな。今も音楽はできるだけLPで聴きたいと思い続けてるようなアナクロなオレに……。 

で、オレはこの会社と同じ国道246号線沿いにある古本屋《三茶文庫》で先日古本を6冊ほど買ってきたので、この海の日は、本の海で過ごしてます。しっかし、“データ”じゃ、顔に載っけて活字の迫力と紙の匂いの中にまどろむこともできないよね。ロマンティックじゃねえなあ、やっぱ。