2.02.2011

Time for a Nü Revolution


■素晴らしい7曲入りEP! このところ、最も繰り返して聴き込んでいるのはこの1枚だ。
まとまったオリジナル録音が聴けるのは、2003年のセカンド・アルバム『One Step Forward(ワン・ステップ・フォーワード)』以来となるレ・ヌビアンズ。つまり、この12年間では、それとデビュー作、98年の『Princesses Nubiennes(プランセス・ニュビエンヌ)』の2枚しかオリジナル・アルバムをリリースしていない。プラス、2005年に“ヌビアンズと仲間たち”による充実のスラム・アルバム『Les Nubians presents : Echos / Chapter One : "Nubian Voyager"』をリリースしているので、ファンはその3枚を繰り返し聴きながら、新しい録音を待ち続けてきた。

現在はニュー・ヨーク:ブルックリンをベイスにしている、カメルーン/フランス・オリジンのシンガー/スラマー、エレヌ&セリア(LN&C-Lia)のフォサール姉妹による《レ・ヌビアンズ》の音楽、活動、発言には、ドイツの植民地を経てヴェルサイユ条約によってイギリス・フランス両国の分割信託統治領となったカメルーンという国に特有のコスモポリットな感覚が常に、それも色濃く、にじみ出ている。想像するに、彼女たちはその感覚を、(ポジティヴな側面からだけではなく、西欧列強の植民地政策に翻弄され続けた母親の祖国の歴史の悲哀にも想いを馳せた“アンビヴァレント”な感情を込めて)英語の名詞に仏語の複数定冠詞をつけるという変則的なユニット名で表現したのだと思う。

(当時日本のレコード会社はおそらくその点に留意せず、彼女たちがフランス出身だという理由から単純にユニット名をフランス語式で――つまり名詞複数形の語末の"s"を発音しないのが正しいと判断して――〈レ・ヌビアン〉とカナ表記してしまったのだろう。もし、彼女たちがフランス語でユニット名をつけるなら〈nubien(ヌビアの(人))〉の女性複数形で〈Les Nubiennes=レ・ニュビエンヌ〉)という表記にならないとおかしい――ファースト・アルバムの表題のように)

彼女たちの〈アフロピアン〉・ミュージックは、1作目『プランセス・ニュビエンヌ』から現在に至るまで、そのメッセージの直裁性にはもとより、あらゆる汎アフリカ的な音の感触(R&B、ヒップホップ、レゲエ、ジャズ、アフロビート、ブラジリアンビートetc.)にも、客演ミュージシャンのキャラ/バックボーンにも、使用楽器(音色)にも、含みに富む言葉の隠喩法にも、一貫したポリシーと強い美しさが弾けていて、聴き飽きるということがない。繊細な音作り、(マキシ・シングルでの)大胆な(リ)ミックス・ワークまで含め、音楽の実質が重層的で聴き痩せしないのだ。

それでも、そろそろ新しい音が聴きたいと思っていたところに、昨秋リリースされたのがこの『Nü Revolution(EP)』で、これは既に完成している待望のニュー・アルバム(とうとう!)の前段としてリリースされたものだ。おそらくフル・レングス・アルバムもタイトルは『Nü Revolution』になるはず。このEPはヌビアンズのライヴ会場かウェブサイトでしか買えないし、数量限定だが、ということは、EPの大部分は“フル・アルバム”にも収録されるはずだ(が、これでしか聴けない曲もあるだろうし、再収録される曲もミックスをちょっと変えてきたりするんじゃないかな。なので熱心なファンはEPも買ってみる価値があると思う。……アルバムも同ミックスだったらごめん)。

内容は、上述の美点はそのままに、よりソウルフルでダンサブルでグルーヴィーな勢いのある曲が並んでいる。この音の豊満なエナジーには”オバマ・レヴォリューション”の高揚が作用していることは間違いないだろうが、現在のエジプト革命の様子をテレヴィやネットで観ながら聴いていると、オレの耳にはよりしっくりくるし、気分がグンと盛り上がる(ヌビアはエジプト南部からスーダンへかけてのナイル川流域の地域のことだし、エジプトも昔のヌビア王国も同一祖先から分派した国)。まさに“A-free-can groove”な感じに、胸のすくような気持ちよさがあるのだ。

で、“フル・レングス”のリリースは4月で、日本盤も出るという話だ(そのあかつきには、カタカナに〈ズ〉をつけてくださいね)。

オフィシャル・ウェブサイトからは、EPの中の1曲「Liberté(リベルテ/自由)」がフリー・ダウンロードできる。