■デンマーク/コペンハーゲンで18日まで開催中の、気候変動枠組み条約・第15回締約国会議(COP15)については連日報道されているが、それに関連して、日本の“A級”マスコミは多分報じないコペンハーゲンの売春問題に関する“攻防”が結構ホットな問題になっている。
デンマークでは(スウェーデン、オランダ、ドイツなどの近隣国でもそうだが)売春婦の労働組合が、性の肉体労働者たちの人権、健康安全や収入に関する不利益が起きないように国や自治体に働きかけている。つまり売春は違法ではないから、売買の当事者双方ともに罰せられない。
しかし、この国際会議期間中に多くの国の首脳級が集まることに付随する、治安やら街の風評やらの問題、またその商取引の増加自体を望まないコペンハーゲン市議会の一部の勢力が、今年8月にある施策を打ち出していた。それは、12月の COP15 会議ヘの出席者に対し、開催期間の2週間の間、売春婦と売買契約を結ばないことを同意してもらおうというものだった。
しかしデンマーク政府は、この“気候サミット会議”への出席者が娼館へ行ったり街娼と接触したりすることに対して介入する意志がないことを11月初旬に言明していた。
このウェブ・ニューズ『The COP15 Post』によると、同じくコペンハーゲンで行われた今年5月のプレ・サミットの開催期間も、10月の(2016年夏季オリンピックの開催地を決めるための、例の東京がまんまと負けた)IOC総会の開催期間も、街の売春婦は“グッド・ビジネス”ができたというから、12月の2週間という長丁場の国際会議の期間も格好の書き入れどきとして期待していたわけだ。きっと客筋もいいんだろうしね。
で、結局、コペンハーゲン市議会も国際会議出席者の“倫理意識”に直接働きかけることは断念したようで、その妥協案として市内のホテル経営者宛に〈宿泊客に売春婦のアレンジをしないよう〉書面で通達し、かつ各ホテルに〈性を買わないで。責任ある行動を〉といった主旨のポスト・カードを置いて、COP15参加者に間接的にアピールする策をとった。そうすると、市に仕事を妨害される売春婦たちとその組合は当然怒るわけで、彼女たちは行政への反撃としてなかなか画期的な策をとった。組合のウェブ・サイトから申し込み、ホテルに置いてあるその〈買うな〉カードを持参したCOP15会議の出席者には、一部サーヴィスを無料提供するというのだ。
昼は地球環境を考え、夜は売春婦の闘争を擁護するタフで意欲的なCOP15会議出席者は、さて、どれだけいるのだろうか。
コペンハーゲンは楽しい想い出がたくさんある好きな街だ。10年以上前に行ったきりだけど、しかしそのときも市の行政には〈くさいものに蓋〉的体質が明らかにあるなと思った。中央駅から見た観光地側(かの有名なチボリ公園や、繁華街ストロイエのある側)の美しく活気に溢れる街の姿と、金のある観光客は誰も行かないだろう駅の裏側エリアとの差が相当凄かったのだ。街に着いて中央駅のインフォメイションで1泊に払える金額を伝え、ホテルを紹介してもらおうとしたら、係員が「その金額じゃこっち側しかないよ」と言う。全然オッケーよ、と言うと確か2度ほど念を押され、セックス&ドラッグ&ロケンロールな街はパリで馴れているものの・・・実際、紹介されたホテルのあった“駅裏”の寂れて不穏なムードの地域は、人通りはまばらでジャンキー率のかなり高いところだった。日本の優良ガイド・ブックにだけ載っていない世界的に有名なコペンハーゲンの観光地:自治区域のクリスチャニアでは大麻草は普通に買えて、健全な草吸系男子と草吸系女子がみんな朗らかで感じがいいが、“駅裏”はその真逆。希望のない顔で肉注系男子と女子がヨロヨロしてる。普通に注射器が落ちてるし、昼の2時の路上で、目の下にクマを作ったガリガリに痩せた女の子(映画に出てくる、絵に描いたようなジャンキー)が、オレの目の前で地面に崩れ落ちるように倒れた。そんなところだ。
・・・とはいえ、ビッグ・マック・セットが1000円以上する物価の街で、そのホテルは安く従業員はファンキーだったし、その地区には1食600~700円で腹いっぱいになる移民系食堂があって、うまい中華やインド料理をたくさん食えたので結果的には楽しかったが、しかし、外向きには手厚い社会保障で国民の幸福度の高さがアピールされている国の首都の、その中央駅のすぐ裏側の風景にはいろいろと考えさせられた。今の売春婦問題の記事を読みながら、そのことを思い出したのだ。世の中には〈“絶対に”なくならない問題〉がある。その点を直視しない政治はみな決定的に不正だ。何故なら、人間というものが分かっていないからだ。そんなやつらが人間のための政治などできるはずなかろう。