12.16.2009

Say cheese!

■年末年始、みなさん家族親戚や友人と一緒に写真を撮る機会が増えるんでしょうが、だけど写真を撮る人が「はい、チーズ!」と言った直後にシャッターを押すのはつくづく変だよね。あれじゃ撮る合図じゃん。被写体の口角を上げるための指示である「チーズ、って言って!」が、いつどこで「はい、チーズ!」になったのか実に不思議だが、こうなるともう、歴とした文化ではある。



じゃあ、写真を撮られる女の子が最初からこんな目で齧ってたらどうする? つうのはくだらない冗談だが、このカレンダーのタイトルもつまらないジョークで、〈from'(fromage)girls〉つまりフロマージュ(=チーズ)・ガールズが贈る2010年カレンダーってわけで、中身も冗談のような写真が並んでいる。ただしその目的はいたって真剣だ。



これはフランス各地特産チーズ生産者協会が商品として作り始めて今度で5年目となるカレンダー。協会のホームページを見て笑うのは、作ってる協会自体がこれを〈無礼でセクシーなカレンダー〉として売っていることで、曰く〈12人の若い女性が、それぞれの特産チーズを予想外のシチュエイションでおもちゃにしています〉。



で、チーズの古くさいイメージを変え、チーズのより〈グラマーな、フェミナンな、そしてポエティックでセンシブルな〉魅力を見直そう、もっと若い世代にも注目してもらおうっていう目的なんだと書いてある。各月の女性の名前のファミリー・ネイムが地名(=チーズの名前)になってて、その右側には各チーズの紹介文もある。そして同協会の会長ヴェロニク・リシェ=ルルージュさん(女性)は、「このカレンダーは、大資本の企業グループがチーズの市場を独占することに対する抵抗運動なのです」と語る。真の目的はそれなのだ。

かの『美味礼賛』を著した食通の政治家ジャン・アンテルム・ブリヤ=サヴァランは、〈チーズのない食事は片目のない美女〉だと言い、第五共和制の初代大統領シャルル・ドゥ・ゴールは、〈チーズが300種類以上ある国をどうやって統治しろっていうんだね!〉とジャーナリストにキレたりしたが、もう、明らかにそんなフランスじゃないんだな。チーズは苦手、っていう若いフランス人に何人も会ったことあるし、彼らはワインもどんどん飲まなくなってるっていうし、そりゃあ作って売って食文化を守っていく立場の人にとっては大変な問題だろう。

そう考えると、日本酒も焼酎も愛しつつ、フランスのワインもチーズもガンガンに賞味する日本人は頼もしいですね(より真剣に楽しんでるのは女性だよね。本国じゃオヤジの酒として人気のなかったマッコルリだって、韓国旅行に行ったなでしこジャパン――選手じゃなくて一般の――がうまそうにグビグビ飲んでるのを見て、韓国の若者も最近飲むようになったって、どっかで聞いた)。



とにかくこのフランスのチーズ協会のカレンダー、表現法についていえば、女性の性的な魅力を利用しているという人権問題上の“そしり”を受けることは多少は織り込み済みだとは思うけど、5年も続いてるくらいだし、実際問題として、あの国ではこういうのってたいした問題にはならない。男だって、財政難で困ったスポーツ・チームのイケメン選手が脱いでカレンダー作ったり、完全に素っ裸でストリーキングした映像を公開して、こんなことするくらい大変なんですよ、ってことで寄附を募ったりしてるからね。まあ、困ったら脱ぐ、自然美は自然な美なんだから、あるものは使えばいい、っていう文化があることは間違いない。結局、そこにどういうセンスを付加し得るかが肝になる。



で、オレはこのカレンダー、チーズ協会の直面している深刻な問題と、写真のかわいらしくてばかばかしいところのギャップが好ましいので好きだ。買いはしないけども。これに何か問題があるとすれば、このカレンダーをダイニングに飾りながら、子供に「食べ物で遊んじゃだめでしょ!」とは叱れないことぐらいだろう。それから、ロクサーヌ・カンタルちゃんは、カンタル・チーズ切ってて指まで切っちゃったんだろうか。

このフレンチ・チーズ・ガールズと1年間過ごしてみたい方は;
(英語で注文できる)

その前に、ここで各月、全部見られます。