12.09.2009

気持ち悪い音楽を耳にしないための気持ちのいい運動

■今、イギリスの“地下”で盛り上がってる、面白い話題。
あの国で大人気の、新しいアイドル歌手を作るためのオーディションTV番組に《The X Factor》というのがある。毎年多くの候補者が参加し、歌ったり、踊ったり、審査員が候補者の自宅を訪ねてプライヴェイトな生活を覗いたり、いろんな角度から審査されていくうちに候補者がだんだん絞られていき、もうすぐ今年の優勝者が決まる。

で、この優勝者は受賞のご褒美として即1曲レコーディングでき、それがリリースされる(曲は毎年カヴァーと決まっていて、今年の曲はオレは初めて名前を知ったマイリー・サイラスという、いかにも、な感じのアメリカのティーネイジ・アイドル・スターの曲らしい)。そして番組の膨大な数のファンがそのシングルを買い、この人気番組に協賛しているイギリスのあらゆるメディアがその曲を流しまくることで、その曲をクリスマスの週のヒット・チャートの1位にして盛り上がるという趣向らしい。

当然ながら、一定期間そんな曲を一方的に聴かされることを嫌う音楽ファンたち・・・もっと正確に言うと(まだ誰がなんという曲を歌うのかは分かっていないので)曲や歌い手が嫌いというよりも、そういう巨大メディアが結託し、そのパワーの象徴として昨日までシロウトだったやつをダシにして“ヒット曲が製造される”ことの気持ち悪さを嫌う人たちがいて、その代表としてトレイシーとジョンという2人が立ち上がった。

で、何をしたのかというと、その《The X Factor》計画を失敗させようと、ソーシャル・ ネットワーキング・サービス Facebook 上にページを立ち上げ、クリスマスの週のヒット・チャートの集計が始まる13日以降に、ある同じ曲をみんなが購入することを呼びかけ、それで《The X Factor》の番組の曲が1位になるのを阻止しようというのだ。
http://www.facebook.com/group.php?gid=2228594104

その曲がいい。アメリカのアナーキーな反権力グループの代表格レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの「Killing in the Name」なのだ。

〈その名のもとの殺戮(Killing in the name of)/奴らの言う通りにするんだ/奴らの言う通りに振る舞うんだ/クソったれ、オレはそんな話にゃ乗らないぜ!(Fuck you, I won't do what you tell me!)〉という歌詞のその曲を、クリスマスの週のNo.1ヒットにしようっていうわけだ。



“killing”には、“大もうけ、大当たり”の意味があるので、“対抗曲”としてのこの曲名には、“番組の名のもとに、No.1ヒットを作ってみやがれ!”というニュアンスが生まれる。うまい。さらにこの選曲が興味を惹くのは、この1992年のナンバーの「その〈御名〉のもとの殺戮」っていうタイトルは、“God Bless America”を免罪符に湾岸戦争に踏み込んだパパ・ブッシュのアメリカを中心とした当時の多国籍軍の行動を非難したもので、当然ながらこの曲がクリスマスにNo.1になったら敬虔なクリスチャンは衝撃を受けるだろう、ってことだ。それでなくても、これまでにもイギリスで何度もこの歌詞が物議を醸してきたのだ。

このアンチ《The X Factor》運動には既に40万人を超える賛同者が集まっている。で、その Facebook  のページでは、「この曲を既に持ってる人も買ってくれ。でもまだ買うなよ、いいか、13日からだからな。13日前に買ってもその前の週のチャートにカウントされちまうぞ」と念を押している。

この〈黒幕機構に対する激怒〉というグループの〈その名のもとの殺戮〉という曲をみんなで買おうという運動は、《Rage Against the X Factor for Xmas no.1》と命名された。賛同者の中にはセックス・ピストルズ/PILのジョン・ライドンの名前もある。

オレもレイジ・ファンなんで当然この曲は持ってるが、買って応援したい。でも、こういうダウンロード購入って外国からはできないんだよな。

ちなみにこの曲名は特に若い活動家たちによって、反戦運動の中で多用されるようになった。こんな風に。