■カレンダーに関係なく仕事するオレは、カレンダーに関係なく休む。前のエントリーで“ヨーロッパの6月は気候も最高”だと書いたが、このところほぼ毎年のように6~7月のどこかで1ヶ月間をヨーロッパで過ごしてきた(体調の問題で、とにかく梅雨の日本を脱出したいのだ)。去年の6月はパリでマニュ・チャオ(日本ではスペイン語風にマヌ・チャオと書く人が多い)の3時間半のショウを2夜続けて観たり(ああ、なんと素晴らしいライヴだったことか…)、トゥーツ&メイタルズや、ティケン・ジャー・ファコリーや、オルケストル・ナシオナル・ドゥ・バルベスのライヴを観たり・・・あるいはアムステルダムの夕暮れどきに、コーヒー・ショップ《The Dolphins》で壁のイルカを眺めながらノーザン・ライツ(名前も美しいが…)をうっとりと一服したりしていたんだが・・・今年はこのジメジメしてる東京の重たい空気の下、洩れるインクで指先を赤くしながら『ボリス・ヴィアンのジャズ入門』の文字校正中。
この暑さと湿気からくるフラストレイションを、なんとか机の上で少しでも軽減する手だてはないかと思い、仕事の合間にこんな写真集を眺めている。ドイツ/ケルンのDaab出版から出ている空港の写真集『Airport Design』。
そもそも雄大な自然を味わうとか、美しいリゾート地なんてものには興味のないオレ(基本的にあらゆる人種がごちゃごちゃしてるところにしか興味がない)にとって、旅というのは、よく考えるとたいして非日常的な体験ではない。着いた先の空港を出た瞬間に、その国の日常生活空間に放り込まれる(飛び込んでしまう?)からだ。なに人だろうと人間の日常の営みの本質に大差はないから、現地の日常空間に入り込んだ瞬間に、普通に人間らしい暖かい歓迎を受けたり、人間ならではの不愉快な迷惑を被ったり、人間の愚かさや面白さを味わったり、紛うことなき現実の“日常”を体験するだけなのだ。
で、その意味で、極めて非日常的な空間体験としての旅行の醍醐味を味わえる場所というのは、ほとんど空港だけだ(だからオレはつまらない“直行便”というやつが嫌いなのだ!)。この空港の写真集は、そんな非日常性を楽しめる世界中のハイパー・モダンで近未来的な空港の、それも特にデザインの鋭いアングルを切り取ったものだから、適当にページを開けば一瞬で頭の中がここからどこかへトリップできる(ノーザン・ライツのように鮮やかに…)。
しかしこの(今まで誰もが軽々しく口にしてきたところの)“近未来感覚”ってやつは、基本的に40年前のジャック・タティの『Play Time』の世界から特に変わっていないように思う。“近未来”のくせに、実際にそこまで時間が進んだところで、真夏の逃げ水のように決して追いつけない感覚・・・。40年前も今も同じ“近未来”・・・。それって結局のところ、やっぱりいつの時代になっても日常とは相容れない何か、もしくは、どこか、なのだ。つまりこの写真集も『Play Time』のDVDも、永遠の“脱ルーティン用ツール”として使えそうだ。東京の6月を苦しむ、あせも・夏バテ予備軍にクールな非日常の世界をもたらす“近未来クラシックス”。
同じ効能を求めて最近頻繁に聴いてる音楽がある。先月リリースされた、フィンランドのヘルシンキを拠点に活動するドラム ン ベイス・クリエイター5組によるコンセプト・コンピ・アルバム『Helsinki Sunshine』だ。出口はUKのハウス/ドラム ン ベイス・レーベル(Pivotal Records)。これを聴けば、北欧の短い夏の、澄みきっていて軽やか(低湿度)な祝祭感覚に包まれる。そういえば・・・コペンハーゲンのかの有名なティヴォリ公園は、基本的に初夏から9月までしか営業してなくて、夏には深夜0時近くになっても大勢の子供が遊んでいる。薄手の防寒服のチャックを閉めて、親子でアイスクリームを楽しそうになめている。オレはそんなかわいらしい人たちのかわいらしい夏の慈しみ方に感じ入りながら、公園のレストランで爽やかな夜風に吹かれ、ニシンを食いながらツボルグ・ピルスナーをガンガンに飲んだいい想い出がある。この時期の東京にいるとそんなことばかり思い出す。
物好きついでに、これは随分前に下北沢のレコファンで500円くらいで買った中古CD(『International Airport 〜世界の大空港』SHOBI KIKAKU)だが、世界の主要空港のボーディング・コールなどのアナウンスを録り集めたマニアックなコレクションで、成田とかJFKとかローマ/ダ・ヴィンチ空港などとともに、コペンハーゲン/カストラップ空港や、アムステルダム/スキポール空港のアナウンスなんかも入ってる。
ちなみにオレのメイル・ソフト(Apple Mail)にメイルが届くと、このCDのパリ/シャルル・ドゥ・ゴール空港のトラックからサンプリングした、アナウンスの前の〈ティロリロリロリン~〉というS.E.が鳴るようにセットしてある(笑)。