1.27.2010

ジャンゴ・レナルト100歳



■このところ、生地ベルギーやフランスで、ジャンゴ・レナルト生誕100年を祝う回顧企画がいろいろと行われている。それでふと、思った。人の死は単純に悲しいものだが、時間さえ経てばその死のあとに、またその人の“存在”について祝うことができる。素晴らしい人間の知恵だ。
ところで、日本ではどういう経緯で彼の名前が《ジャンゴ・ラインハルト》と表記されるようになったのかが分からず、職業柄、ずっとモヤモヤしている・・・。彼の出自はロマ/マヌーシュのファミリーにあるが、ベルギーのフランス語圏リベルシ生まれで、その地で出生届もフランス語で出されている。10歳前後からほとんどフランスに住み、ジャズの興隆に貢献してフランス独自の“ジャズ・マヌーシュ”を確立し、フランスの市民権を得、フランスで没した。という人生である以上、彼の姓を、フランス語圏での発音以外の方法でわざわざ発音する理由が分かんないのだ。
ということで、『ボリス・ヴィアンのジャズ入門』の中でも〈ジャンゴ・レナルト〉と表記しています。本の始めの方に出てくるところでは、日本での通用名も併記していますが。

彼が〈今、生きていたらこの1月23日で100歳〉というタイミングの回顧ムードに加え、その彼が今のオレの歳、43歳で死んだことも加わって二重に感慨深い。で、窓際の日だまりに座りながらデカい音でジャンゴ・レナルトを聴いている。今はユニバーサル《Jazz in Paris》シリーズの中の『Swing from Paris』を。

最近、日本向け放送に日本語字幕を付けることを発表したフランス語圏放送のTV5 MONDEのジャーナリスト:エステル・マルタンがキャスターを務めるニュースでも先日レナルトの特集があったばかりだ。



これには字幕がないけど、ジャンゴの生地も、その出生証明書も、若い頃の写真なんかも、いろいろと出てきてコンパクトにまとまっていて楽しい。最近『Django Reinhardt et le jazz manouche - Ou les 100 ans du "jazz à la française"(ジャンゴ・レナルトとジャズ・マヌーシュ ~ または“フランス流ジャズ”の100年)』という本を出したジャン=バプティスト・テュゼが、「今、また若いギタリストたちがジャズ・マヌーシュのスタイルに改めて魅せられ、自分のプレイにどんどん取り入れている。今、ジャズ・マヌーシュは“ア・ラ・モード”なんだ」と最後に語っていて、日本でも大勢のファンがよろこぶだろうエピソードだ。

18歳で負った火事による損傷で左手の指が親指から中指までしか使えなくなった(実質、弦に触れる指が2本しかなくなった)とは思えない流麗なソロと、あのザク・ザクと力強く刻まれていくリズムを聴いていると、とにかく気分がほかほかしてくる。と同時に、若くしてこの音楽を完成し、それが世界のジャズの標準のひとつとして今も(ますます幅広く)評価されているレナルトの人生を思うと、その43年の人生を自分のこれまでの時間とつい、比べてしまいそうになる。天才の人生と自分のそれの“価値”を比べたって無意味なのだが、少なくとも死について考えることは自分の人生にとって無駄じゃない・・・。

それに、今年に入ってまだひと月も経っていないのに、好きな人が何人も鬼籍に入ったので、昨秋の祖父の死以降、最近嫌でも死について考えることが多い。エリック・ロメール、浅川マキ、テディー・ペンダーグラス・・・みんな今月死んだ。それから、あんまり話題にはなってないけど、粋で純で料理がうまい名探偵スペンサーを生んだ作家ロバート・B・パーカーもつい先日他界した
「タフじゃなくては生きていけない。やさしくなくては、生きている資格はない」などとフィリップ・マーロウに言わせたのはレイモンド・チャンドラーだが、マーク・トゥウェイン~アーネスト・ヘミングウェイ経由でダシール・ハメットやチャンドラーをとっかかりに“ハードボイルド”小説を読み漁っていた18歳頃のオレに一番リアリティーがあったのが、“同時代”を生きているスペンサーだった。とにかく、タフだとかやさしいだとかの以前に、自分で食うものくらい自分で作らなくて、どうやって生きて行くんだ? というメッセージを勝手にスペンサーから受け取ったオレは、それ以来ずっとその“教え”に忠実に生きている、という意味ではロバート・B・パーカーは、オレの人生の師のひとり、ってことになるのかもしれない。・・・そんなこと言ったら、女の子の膝が好きなのは、その魅力をロメールに教わったせいだしな・・・(笑)。

ま、とにかく、ジャンゴの“飄々とした”音楽を聴きながら、日だまりで猫になって今月の追悼をしている。もちろん、ハイチで、何が起こったのかさえ分からないうちに亡くなった人が大勢いるだろうことを思うと、それが何よりいたたまれない。