■年頭から『ザ・ニュー・ヨーク・タイムズ』のスクープで全米が寒々しく沸いたH&Mとウォル=マートのゴミ問題、みなさん、どこかで目にされただろうか?
マンハッタン西34thストリートのH&Mのブティックの裏口(35th st.)に、同店の売れ残った商品が故意にキズモノにされてゴミ袋に詰められたものが大量に放置され、ゴミ回収車を待っている状態になっていた。それを大学院生のシンシア・マグナスさんが見つけて仰天した、という話だ。
彼女はH&Mのスウェーデン本社にこの事態に関して問い合わせたが無視され、それで『タイムズ』に連絡を取った。H&Mの同店は、切り刻んだ商品を再度同じように廃棄。その確認された2度の行為を伝えた最初の『タイムズ』1/5付けの報道では、同じ時期にウォル=マートも同様に、新品の洋服にパンチャーででかい穴を開けて破棄していたことが報じられた。
作ってから*分間売れなかったら商品を廃棄する、というようなことを誇らしげに声明するハンバーガー屋が優良企業になったりする世の中だから、売れ残った自社製品の服をカッター・ナイフで刻んで捨てようが、そんなのは会社の勝手だろう、と考える人もいるだろう。ゴミ袋に入れて捨てりゃあ、ドーラとブーツを好きな子供がそれ見てショックを受けることもないだろしよ、と。
ところが、ところが、H&Mは“サスティナビリティー”(みんなの好きな呪文〈ロハス〉の“ス”ね)を企業理念の筆頭に挙げている会社だし、これまで企業内で使用する紙類をどれだけ減らしてきたか、などという世間へのアピールも怠りなかった。参考までに日本のH&MのHPを見てみても、その、要するに“環境を破壊しないで継続できる洋服屋としての理念”をこんな風に力説しているわけで、そんな会社が新品の服を、わざわざ切り裂いて大量にゴミにしていたから問題視されたのだ。加えて、同社は売れ残った商品や返品商品などは地域の慈善団体に寄付する、というポリシーまで明言していたのに関わらず、である。
この『タイムズ』の記事で最も読者の胸に訴えかけたのは《It is winter. A third of the city is poor. And unworn clothing is being destroyed nightly.》という一節ではないか。今、寒波に襲われている、この3人に1人が貧困層の街で、一度も袖を通されていない新品の服が夜な夜な切り裂かれている・・・。
その記事が『タイムズ』に載ったと思ったら、今度は即、H&M New Yorkのスポークスウーマンが声明を出した。「他の店ではそのようなことが起きていないことを100%確信しているし、商品のそのような処置は当社のスタンダードな処置ではない」、と。また、ウォル=マートのスポークスウーマンも、「何故そんなことになったのか分からないし、通常はきちんと慈善団体に寄贈するなりリサイクルするなりしている」と述べた。
どちらの会社も“一部内部分子の犯行”として処理し、企業イメージを損なわないようにしたいのだろうが、そんな風に声明するのは会社として“健全”なことで、それが立派な優良社員というものだ。オレはそんな優良社員に興味はないのであって、むしろ、そんなことをやった人間が、何を狙ってやったのかに興味を持った。単に売れ残り品を慈善団体に贈る行程が面倒だったのかもしれない。でも、もしかして・・・“ハイセンス”なものを安く買えるからといって単純にはしゃいでる消費者たちに対して、それから人件費を叩きまくって安く大量生産して余らせる企業のやり方に対して、何らかの警鐘を鳴らそうとしたんだとしたら・・・と想像力をたくましくしてみた場合、オレはその優良会社員たちよりも、“犯人”の方に遥かにシンパシーを抱くね。ことが発覚するまで商品をゴミにし続けても、それが世間に与えるショックで何かを訴えようとしたんなら、さ。でも・・・まさかね。