■(今日のエントリーは、レゲエ・ファン、あるいはレゲエの何が面白いのか分かんないけど興味はある、という人のみ、お読み下さい。それ以外の方はおそらく頭痛がします・・・連日3けたの数のアクセスを下さる、マヌ・チャオのファンの方は読んで下さった方がいいでしょう)
先日《過ぎ去ったもの、と、たまったもの》という題名のエントリーで、イギリスのプレッシャー・サウンズからリリースされ、ぼくが解説原稿を寄せたリー・ペリーのレア・ダブ・プレイト集『サウンド・システム・スクラッチ』について触れた。
日本での発売元のビート・レコーズのウェブ・サイトでその解説が読めるのだが、その中の収録曲(6曲目)The Upsetters名義の「Chim Cherie」について、先日、友人の石川貴教くんから電話をもらった。
ぼくはその解説で以下のように書いていた:
06. Chim Cherie - The Upsetters
ミステリアスなトラックだ。ペリーが最初にリズム・ボックスを使用したのは、おそらく『Roast Fish, Collie Weed & Corn Bread』の「Soul Fire」ではないかと思う。仮にそれが正確ではないにしても、その(1978年)頃のことだろうし、このダブ冒頭のチープな打ち込みの感じは、「Soul Fire」の感触と類似している。しかしこの録音は、そのあとに明らかに音(電子音の“スネア”)が被せられており、それがペリーによるものかどうかには疑問を抱くし、仮にペリーによるものだとしてもブラック・アーク期の(70年代の)音色ではない。その一方で、それ以外の部分の音は、感触からして間違いなくアーク産であろうし、このベース・ラインにも聴き覚えがある気がするのだが、何度も聴き返しているうちにそんな錯覚を覚えているだけかもしれない……。
石川くんは、この「Chim Cherie」を聴いてすぐに、これがシャインヘッドの「Billie Jean」の元だと気がついたという。聴いてみれば、あ! なるほどそうだ。しかしシャインヘッドのこの曲を相当長い間耳にしていないオレは、もっと別の曲でこの曲のベース・ラインもしくはコード進行を記憶していたはずだ。石川くんにはその電話で、「教えてもらった情報を膨らませて「Chim Cherie」に関する正しい情報をこのブログにアップするよ」と伝えたのだが、そもそもオレが何の曲でこのリディムを記憶していたのかがパッと頭に思い浮かばない。
で、ぐずぐずしているうちに、石川くんからメールでまた新たな情報をもらった。これのリディムのオリジナルはスタジオ・ワンのバンプス・オークリー「Get a Lick」だと言うのだ。ああ、そうだ、オレはこれで知ってるんだ。これ(下記 Bumps Oakley の YouTube 映像参照)オレの大好きなレコードだもの。
3つ並べて聴き比べてみて欲しい。リー・ペリー『サウンド・システム・スクラッチ』からはこの曲が7インチでシングル盤がカットされたばかりなので、まずは問題の曲の7インチから、〈1.〉と表示されているA面のサンプルを。
Read full review of Chim Cherie - THE UPSETTER on Boomkat.com ©
次はこれ。もちろん、マイケル・ジャクソンのカヴァーだ。
Shinehead - Billie Jean
で、これがすべてのオリジナル。
Bumps Oakley - Get a Lick
で、これで充分に謎は解けたのだが、さらに突っ込んで調べてみると、ロック・ステディ期に生まれたこの「Get a Lick」自体が、スカ時代の末期――要するに母体のスカタライツから新バンドのソウル・ブラザーズが誕生し、しかしリズムはまだロック・ステディになっていない1967年――に、ソウル・ブラザーズが録音した「Take Ten」が下敷きになっていることをつきとめた。聴き比べると、「Take Ten」は「Get a Lick」と同じリディム、というより、前者は後者の元曲、というべき関係性にある。
The Soul Brothers - Take Ten
で、この「Take Ten」は、そもそもデイヴ・ブルーベック・カルテットの、かの有名曲「Take Five」の作曲者、兼アルト・サックス奏者のポール・デズモンドが、同曲の続編として作った曲で、このソウル・ブラザーズ版はそのスカ・カヴァーである。ならばポール・デズモンドのレコードを引っ張り出して聴いてみたら、ソウル・ブラザーズ・ヴァージョンはオリジナルのメロディーにかなり忠実であることを再確認した。もちろん原曲の拍子(4分の5拍子に聴こえるが、テンだから、これって8分の10拍子なのかな? 曲の途中がそう?)がスカの4分の2拍子になってるわけだけども。
Paul Desmond - Take Ten
ってことは、大元はポール・デズモンドまでさかのぼる、ってことか。楽しいぜ、ジャマイカン・ミュージック。
で、問題のリー・ペリー(アップセッターズ)「Chim Cherie」に立ち戻ろう。
で、問題のリー・ペリー(アップセッターズ)「Chim Cherie」に立ち戻ろう。
上に貼りつけた、「Chim Cherie」のシングルを試聴できるサイトはマンチェスターの相当ナイスなレコード屋《ブームカット》のものだが、そこにあるこの曲の解説には、これが〈Billie Jean〉オケの元であることもきっちり書いてあるだけでなく、ジャマイカにドラム・マシーンが導入された最初期のものであり、ここで聴ける打ち込みのプログラミングは、アップセッターズ、のちに(ボブ・マーリー&)ウェイラーズのリズム隊になったアストン&ファミリーマンのバレット兄弟によるもので、それをリー・ペリーの作ったブラック・アーク産〈Billie Jean〉オケ――つまり、もっと正確には〈Get a Lick〉オケ――に被せたもの、と書いてあるのだ。バレット兄弟がいつこのプログラミングを行なったかは記されていないが、仮にブラック・アーク・スタジオが存在した70年代の後半だとしても、そのビートを打ち込む作業自体はリー・ペリーの手を介していないわけだから、この「Chim Cherie」の打ち込み音の感触が、知られているブラック・アーク産の録音にはない種類のものだったのは、つまりそういうことだったのである。
なので、ぼくが解説原稿に書いたことは半分は当たっていたわけだ。「Billie Jean」が頭に浮かばなかったのは、レゲエ評論家としては結構なミスだが。
で、こうした曲とリディムの関係がクリアーになってくれば、派生した曲の関連性はどんどん見えてくるもので、なんてこったい、ハーフ・パイントのこの名曲も同じリディムだったね。
Half Pint - One in a Million
さらに冷静になって考えてみると、リー・ペリー自身も1990年のマンゴ盤『From the Secret Laboratory』の中の「You Thought I Was Dead」でこのリディムで歌ってるじゃん。
バックはダブ・シンジケイト名義だが、実質のリズム隊はルーツ・ラディクスなのでドラムズはスタイル・スコット。石川くんから聞いたところでは、例のシャインヘッドの「Billie Jean」も、あのドラム(打ち込みっぽくシンセ・ドラムを叩いてるのか?)はスタイル・スコットだということだ(シャインヘッドのレコード、オレ、持ってないのよ……)。
Lee Perry & Dub Syndicate - You Thought I Was Dead
http://www.youtube.com/watch?v=NtWPj0Ce0rI
ってことで、長くなったのでこのへんで止めますが、『サウンド・システム・スクラッチ』を買われた方は、是非、この追加情報も参考にしてください。
ってことで、長くなったのでこのへんで止めますが、『サウンド・システム・スクラッチ』を買われた方は、是非、この追加情報も参考にしてください。
石川貴教くんは、レゲエ・ファンにはおなじみですが、ぼくの20年来の友人でもあります。ジャマイカに暮らしていたこともあり、レゲエもぼくよりずっと詳しい(つーか、あらゆるジャンルの音楽について深い知識を持っている)。ギヴ・サンクス!