普通選挙を保障する日本国憲法の第十五条には、オレに普通選挙が保証されることは書いてあるが、投票することが義務だとは書いていない。つまり〈投票所入場券〉が送られてきても、無視したっていいわけだし、もちろん無視している人は大勢いる。
しかし、問題は、この選挙制度自体に疑義を抱く場合だ。
ただ単に〈棄権〉すると、それは「投票する権利を棄て、自主的にそれを行使しない」ことと解され、選挙制度自体に対する疑義を示す機会を逸する。さらに〈棄権〉することで、例えばファシスト石原慎太郎のように特に気に入らない候補者をみすみす利することになってしまう可能性もあるとしたら腹立たしいが、渡邊、東国原ら対抗馬の大多数が信用できない、もしくは何者か知らない、ことの以前に、選挙によってリーダーや議員を選び、そいつらの“下”に民主主義が成立するという甘言自体を信用しなくなった人間には、選挙に際してその不信の意思表示の権利が与えられていないのか? という素朴な疑問である。憲法は普通選挙を保証するだけで、それが義務だとも言っていない代わり、それを拒否する自由があるともないとも明記していないのだ。
もちろん、選挙を信用しない、という意思を、投票所に出かけていって白紙投票する、あるいはイタズラ書きして箱に突っ込んでくる、という行為で示す方法もある。それも悪くないが、しかしオレにとってその方法が“致命的”に思われるのは、その白紙あるいはイタズラ書き投票で、投票率を上げてしまうことだ。投票率の数字=選挙制度に対する信頼の高さ、もしくは投票という行為自体ヘの信任、として都合よく解釈されるのが不愉快だ。
ならば、オレの権利を返還して、選挙管理委員会に受け取ってもらい、〈有権者数〉と〈投票者数〉の間に〈権利の自主返納者数〉としてカウントしてもらうことはできないのだろうか?
・・・というようなことを思っていたので、この機会に東京都選挙管理委員会事務局に電話してみた。そして電話に出たFさんという男性に「ぼくはとちヂ選で誰にも入れたくない以前に、もはや選挙自体を信用していないので、そのことの意思表示はしたいのです。なので、棄権することも、白紙投票も本意ではなく、自分にとっての最も適切な意思表示法として、選挙権を返したいのですが・・・今回はとちヂ選なので、今回の分はそちらで受け取っていただけますか?」と丁重に訊いてみたわけである。
答えは残念ながら、「そういう制度がないし、“お客様(オレ註:彼は確かにそう言った)”の気持ちは分かるし、貴重な意見として承っておくけれど、こちらはそれ以上の判断をする立場にないし、今すぐに何らかの方法を指示する立場にもない」とのことだった。選挙を管理する委員会が判断する立場にないということは、オレの意見は〈選挙〉の範疇にない意見として処理されるのである。オレは真剣に選挙を考えれば考えるほどそのシステムが信用できなくなったのだが、その思考が〈選挙〉の範疇にないとは、とっても皮肉なことだ。
そんな対応なんだから、もし受け取り証明付きの郵便か宅急便かで送り返しても、届け出住所からの転居ゆえの不達、というような扱いで静かに処理されるんだろう、おそらく。
さてさて・・・・きちんと言われた通り期日内に所得税の青色申告も終えたし、税金も納めている、このか弱き従順たる“いち市民”の正当な権利として、選挙権を拒否する方法は本当にないのだろうか? オレは不当な権利を乱暴に要求しているわけではない、どころか、その逆なのだ。ただ単に、やさしく返したいから、おとなしく受け取って欲しいだけなのにい。