9.30.2009

面白いラジオ(秋のラジオ考)

■日本のラジオでもたまに面白い番組はあるが、《面白いラジオ局》というものは存在しない。断言する。

オレの理想のラジオ・ステイションというものは、

・一日中、ずっと流しっぱなしにいていられる。
・好きな音楽が頻繁に流れる。
・(それより遥かに重要なことだが)不快な音楽がほぼ流れない。
・“すなわち”/そして、政治的なカラーがはっきりしている。
・パーソナリティーの発言で、ニヤリと笑わせる。
・討論番組(最低でも30分)では、参加者の発言でスカッとしたり、ドキッとしたりできる。
・知的な連中が、真剣に毒のあるギャグを考えている。
・政権に、警察権力にきちんと《ファック・ユー》が言える。
・要するに、番組単位ではなく、局としてのポリシーがあり、放送内容の自由を脅かす暴力に対しては徹底的に(聴取者を巻き込んで)闘う。何故ならばそれはリスナーの自由に対する侵害でもあるからである。

という感じのものだが・・・ラジオなんてそもそも海賊局でいい。というか、むしろその方がいい。しかし、マンションの郵便受けにちょっと政治的なビラを投函するだけで捕まる国で、好き勝手に電波を長期的に飛ばすのはそらぁ、夢のまた夢だ。

だからオレは毎日、パリのラジオ・ノヴァ Radio Nova をインターネット経由で聴いている。もとは海賊放送局だったが社会党のフランソワ・ミッテラン政権で正規の放送局として認可されてから30年弱、ビジネス的にデカくなって大企業やつまらん企業のCMも流れるようになったが、局の基本的なスタンスはさほど変わっていない。朝7時から、報道コーナー(フラッシュ・ニュース)はギャグとアイロニーにまみれて頻繁に“別地点”に着地するし、一日のウォーミング・アップがサルコジーを嘲弄することだったりする。

(ラジオ・ノヴァはサルコが昔から最も嫌うラジオ局の1つだ・・・以前この放送局が『nova MAGAZINE』という月刊誌も発行していた頃、当時内務大臣だったサルコジー(当然右派)が示した大麻吸引に対する不寛容な方針を受けて、2003年2月号のカナビス特集号でこんな表紙で抵抗したのがクールだった↓)。

(ついてる見出しはちょっとしたダブル・ミーニングで、サルコのために巻いてるんじゃねえよ/サルコなんかシカト、って感じのニュアンス)

で、その Radio Nova は音楽がいい。ロックもソウルもファンクもジャズもレゲエもテクノもハウスもラテンもアフリカ音楽も映画音楽も何もかも、きちんと一定のテイスト内に収まっている。確固たる選曲ポリシーのある放送局を聴き続けるというのは、音楽を聴き分ける耳を養う訓練になる。例えば、どこかで新しい曲を聴いたときに、“ノヴァはこの曲をプレイするだろうか?”という基準でその曲を自分の中に位置づけることができるようになる。あるいはノヴァの放送中に、自分の感覚からするとノヴァらしからぬ曲に思われるものが流れたときには、“ノヴァは何故これを選曲したのか?”という点を考えながら聴くことを強いられる。これこそが、“いちラジオ・ステイションの示す音楽に対する批評性”というものであり、それが元となって、送り手と受け手との間の、音楽を介した緊張感のあるコミュニケイションが生まれるのだ――実際にノヴァのウェブ・サイト上のストリーミング・プレイヤーでは、〈この曲好き(J'aime)〉〈好きじゃない(J'aime pas)〉〈かけ過ぎ、飽きた(Trop entendu)〉という3つの中からリスナーが今流れている曲に対して意思表示できるようになっているし、結局、それでも納得いかない選曲が多ければ自然とリスナーはその局を離れていくわけだ。

で、そのラジオ・ノヴァが、昨日、10年振りくらい(?)にウェブ・サイト Novaplanet を全面リニューアルした。日本でも実はファンの少なくない nova だが、フランス語が分からないとサイトのどこをクリックすれば放送が聴けるのかさえ分かりにくかったものが、今度は《NOVA PLAYER/PLAY》という表示になった。あと知っておくと便利なのは、《C'était quoi ce titre?》というところをクリックすると、過去に流れた曲の一覧が別ウィンドウで開くことくらいだ。ちなみに、これを書いてるたった今の時点でのリストはこれだ。nova が今日、朝っぱらから何を流しているのかが分かる。


ラジオ放送というのは国の許認可事業であり、日本の総務省はおいそれと新しいラジオ局の開局認可などしないから、いつまでたっても、どの局も大差ない何局かが大概において眠たい番組を垂れ流し続けている。が、例えばパリ市の場合、その面積は東京のJR山手線の内側程度なのに、そこに約50ものFM局が存在している。だから各局は独自のカラーを打ち出し、よってこんな選曲の局もあり得るわけだが、今後こういう性格のFM局が日本にもできる可能性について考えると・・・どうも気分が鬱々としてきてしまう。この国のお上は実によく分かっているのだ、電波を自由にさせるのは“危険”なことだと。海賊局あるいは好き勝手に独自のカラーを打ち出すラジオ局なんかが“はびこる”ことは、この国に本物の民主主義が生まれる萌芽になってしまうのだということを。


しかし、どっこい、この日本の地下にも注目すべき新しいネット・ラジオのメディアはできてきているし、地道に支持者を増やしているプログラムもある。
その中から新しい情報と、それから今週注目している放送を紹介しておく。日本のメディアだから、紹介するのに nova のようには多くを語らない。興味のある人は、それがどんなものか、クリックして自分の耳で確かめられたし。

VOA - Voice of Antifa ・・・随時聴取可能。現時点で聴けるのは第1回のパイロット放送。


★今週日曜日のネットラジオ素人の乱「RLLのかくめい生活研究所」・・・10/04 22:00~

今週は、モダーンなストリート・ファイティング・(ウー)マン必読の新刊『ストリートの思想』(NHKブックス)を上梓した社会学者の毛利嘉孝さんがゲスト。番組の詳細はこちら



追記:Radio Nova は、サイトのリニューアル後、おそらく物凄いアクセスが殺到しているのでしょう、なかなかストリーミングできない。ここ最近、こんな状況はなかったのだが・・・。トライしてダメだった人は、時間をおいてまた行ってみてください。