■今週のグラトス=グラティス=ロハ、その2。
Les Rita Mitsouko(レ・リタ・ミツコ)は素晴らしいユニットだった。音楽が素晴らしいだけでなく、2人にはユーモアがあり、政治的な発言にも説得力があり、ときには”商売”を度外視して市民運動を率先し、多くのフランス国民(右翼除く)に愛された。もちろん、80年代には世界中に知られたし、そもそもその名前自体が、《“リタ(南米の女性名)”と“ミツコ(日本の女性名)”》・・・要するに“世界の端から端まで”を意味する、彼らの世界主義的な思想を表象したネイミングだった。
The No Comprendo (1986)
Best Ov Les Rita Mitsouko(2001)
http://www.ritamitsouko.com/
と、過去形で書かねばならないのは、2年前に惜しくもフレッド・シシャンが他界してしまったからで、去年からカトゥリーヌ・ランジェが1人で活動を再開している。
このフレッド他界の報道に載っている写真の日のパフォーマンスが、YouTubeで観られる。フレッドのギター1本で「Marcia Baila」を歌い、その後ヘロヘロのヴァネッサ・パラディーが飛び入りして一緒に「Les histoires d'A.(Aの話/これは”Amour”の方)」を歌う。なかなかいい。
http://www.youtube.com/watch?v=n6Ley20SFcg
このフレッド他界の報道に載っている写真の日のパフォーマンスが、YouTubeで観られる。フレッドのギター1本で「Marcia Baila」を歌い、その後ヘロヘロのヴァネッサ・パラディーが飛び入りして一緒に「Les histoires d'A.(Aの話/これは”Amour”の方)」を歌う。なかなかいい。
http://www.youtube.com/watch?v=n6Ley20SFcg
最近では、カトゥリーヌ・ランジェがお友だちイギー・ポップにエスコートされ、スクリーミン・ジェイ・ホーキンズのクレイジー・ワルツ「I Put a Spell on You」をTVショウでデュエットしたのも話題になった。
http://www.youtube.com/watch?v=aad0EoncFRw前置きはさておき、何がタダかというと・・・その待たれるカトゥリーヌのソロ・スタジオ・アルバムに先駆けて、少し前から彼女の新曲が無料でダウンロードできるようになっているのだ。で、その曲がフランスで結構な”物議”を醸しているので、DLする人に曲の背景を解説しておこうと思う。
レモンとは、レモン・ドメネック(Raymond Domenech)のことで、日本でもサッカー・マニアなら知ってるのかもしれないが、フランスのナショナル・フットボール・チームの監督だ。オレは全然熱心なサッカー・ファンじゃないが、この男はなかなか興味深いので、彼についてはちょっとだけ知っている。
というのも去年の6月にマニュ・チャオのパリ公演を観に行ったちょうどそのとき、ヨーロッパはサッカーの欧州選手権でガンガンに盛り上がっていた(欧州では多分にお祭りっぽいワールド・カップよりも、近隣諸国とのガチンコ勝負=欧州選手権の方が、サッカー好きはずっと熱くなるらしい)。で、フランス・チームは大事なイタリア戦で敗退し、ちょうどそのテレヴィを観ていたのだが、その試合直後の監督インタヴューの最後に「この負けの責任を取って進退について考えるか?」とアナウンサーに問われたときにこのレモンという男、「分からない。ただ、今の私の唯一の予定は・・・エステル、きみと結婚したい。こんなときだからこそ、きみが必要なんだ」と、カメラ目線で恋人にプロポーズしたのである。民放TV M6の生放送の敗戦の弁の場で、だ。(観たい人はこれ)
彼の恋人とはそのM6のサッカー番組の司会をしているエステル・ドゥニ(Estelle Denis)で、そのインタヴューをスタジオで観ているのである。2人の間には子供もいるし、両者の関係は有名なのだが、それにしても、国中のファンがイタリアに負けて怒っているその瞬間に、監督がそのあとテレヴィに映る恋人に公共の電波でプロポーズしたんだから、メディアはナショナル・チーム監督のその良識を疑い、国内サポーターも彼をけちょんけちょんに叩きまくった。ある意味当然である。
その恋人のエステル・ドゥニは、担当する人気サッカー番組で、いつもお世辞にも品がいいとはいえないサッカー評論家やジャーナリスト連中と丁々発止でやりあうなかなか気持ちのいい女性で・・・
(この映像では、評論家連中が全員、彼女に対して、ドメネックは監督を辞めた方がいいと言っている)
(これはその翌日の放送で、ドゥニは「結婚するのか? どうなんだ」と評論家に責められるも平然とシラを切りまくっている。この日のスタジオには、その様子をあきれ顔で眺めるミュージシャンのバンジャマン・ビオレーもいる)
・・・視聴者からの人気も高い。なので、彼女のファンはますます、「おまえ、結婚どころじゃねえぞ、さっさと監督辞任しろ!」ということになるのだが、その欧州選手権の痛恨の敗退、プラス、前代未聞のプロポーズ大作戦から1年以上たった今も、レモン・ドメネックはフランス代表チームの監督であり続けていて、ますますプレッシャー高まる中で2010年ワールド・カップの予選を戦っている。
そんなときに、“国民的歌手”カトゥリーヌ・ランジェは「Je kiffe Raymond(大好きよ、レモン)」という新曲を作り、それをタダで配信し始めたというわけだ。話題はあっという間に広がり、間違いなく、物凄い回数ダウンロードされているだろう。
で、その内容はというと、「アタシはレモンが大好き。いい男。凄く、いい男だわ。あの視線がステキ。彼はまわりの言うことなんか構っちゃいないのよ。彼のやり方、その口調も・・・完璧よ、ドメネック。みんなあんたのこと大好きなんだから」って感じで、笑っちゃうくらいベタ褒め。
当然彼を“みんなが大好き”なはずはないし、ここまで持ち上げると強烈な冗談にも思えるわけで、あの硬派な(そしてこっちはみんながその良識を信用している)カトゥリーヌ・ランジェが、こんな歌をどこまでマジで歌っているのか、みんな笑いながら首をかしげている感じなのだ。
で、肝心のヴォーカルは、相変わらずカッコいい、クールに歌い飛ばすカトゥリーヌ節だし、文句なく楽しい曲だ。オレは昔から彼女の大ファンなので、地球の裏側の“ミツコ”の国からも、この曲をたくさんダウンロードして欲しいと思うわけです。
ちなみに曲名「Je kiffe Raymond(ジュ・キフ・レモン)」の“kiffe(不定詞 kiffer)”という動詞が、普通のフランス語辞書には絶対に出てこないスラングで、“凄く好き”という意味。語源はアラビア語の“kif(キフ)”で、大麻(樹脂/ハシシ)のことだ。この言葉がフランスの旧植民地だった北アフリカ諸国経由でフランス語の中に入ってきたときに、“大麻”が“大好き”という意味になり、みんなが使うようになった。最後、いい話だろ。