10.20.2009

(自転車に乗って)友川カズキ(を聴きに行く)

■暑からず寒からず1年で最も好きな季節、その秋の夜に、自転車に乗ってタラリタラリと友川カズキのコンサートに行くこと以上に好ましい時間の過ごし方はないように思われたので、しばらく前にチケットを予約して、この木曜の晩を待っていた。



会場は、この夏渋谷・桜丘町から目黒区の碑文谷へ引っ越した、歴史ある硬派ライヴ・ハウスのアピア。桜丘でも友川のライヴを何度か見たが、あの、微かに異次元的で、歩いてすぐそこにあるモヤイ像前やハチ公前とはまるで質の違う時間が流れる・・・つーか、むしろ時間のいい加減の弛緩と停滞が気持ちよくて貴重な空間だった、あの渋谷アピアで聴く友川は格別だった。

今年7月、オープン40周年のタイミングで碑文谷に移り、店名もAPIA 40(アピア・フォーティー)としてニュー・オープンしてからまだ1度も行っていなかったので、店の雰囲気がどう変わったのかを見るのも楽しみだった。その7/5の《NEW OPEN オープニングLIVE》も友川カズキだった(見逃した)が、そのくらいアピアは友川にとって縁の深い、彼のホーム・グラウンド的なライヴ・ハウスだ。オレにはあんまり趣味というものがないんだけれども、年に1度くらいアピアで友川を聴く、というのは、我ながら非常に趣味のいいいい趣味だと思っている。

新しいアピアの店内には感心した。今度は“路面店”ではなくて小綺麗なビルの地下にあって、渋谷よりはずっとスッキリした清潔感のある内装なのだが、しかし40年間で培った精神が途切れた感じが全くしない。ホールは広くなっているのに、以前より座り心地のいい椅子の全席どこでもテーブルにグラスが置けるようになっている。もともと(多分)5~60席しかない小屋だったが、ホールが広くなった分、お客さんを詰め込もうとしないでテーブルを入れる、という考え方が気持ちいい。壁を飾る小野塚香さんの木彫りの彫刻も、渋谷時代の歴史と旧店のムードが集約保存されたその上からポジティヴなエネルギーが静かに沸き立っているような作品で、19 : 20の開演まで惚れ惚れと眺めていた(このおかしな開演時刻・・・)。

で、友川カズキは、相変わらずカッコいい。世の中の美しいものを咀嚼しては力ある言葉に再生産し、世の中の汚いものにも噛みついて、毒を混ぜてはその汚いものの上に倍にしてぶちまけるような歌がパンクである。決してクールな人ではない。還暦を迎えようとしているのに、そして40年近く歌っている大ヴェテランなのに、老成した感じがないどころか、もがきまくっている。・・・といっても、職業歌手としてうまく世の中を渡ろうとしてもがいてるんじゃなく、その逆で、その自分の歌を変えないためにずっともがいている。当然歌手として商業的に大成しているとはいえず、ステイジでギターを抱えた本人が自嘲気味に語るように、本当に競輪で生活しているのだろう。

酒を飲みながら演奏する人は多々見てきたが、見ているこっちが心配になるくらい酒をガブガブ飲みながら歌うのは友川だけだ。歌っている場所の右手、予備のギターのホルダーよりも近くに専用の“グラス・ホルダー”があり、そこには氷と輪切りのカボスが入ったデカいグラスがある。足もとにはこれまたデカい水差しに(渋谷ではやかんだったが)、焼酎の水割りだろう、透明の液体がなみなみと入っている。1曲歌う前と歌ったあとに、それをガブガブと飲んで、何度も何度も足元の液体を自分でグラスに注ぎ足す。歌ってるときの真剣さにも増して、キリッと引き締まった表情になるのがその液体を飲んでいる瞬間だ。オレは、友川の酒を飲む瞬間の顔を見るのが好きで、その顔がよく見える場所に座る。

友川を囲むミュージシャンは、ファンにはお馴染み、ピアノに永畑雅人、ドラム/パーカッションは石塚俊明(“今を時めく”頭脳警察のTOSHIだ)といういつものトリオ構成だったはずが、ピアノの永畑が「自転車で転んで手首を骨折した」というおよそプロのピアニストにあるまじき事故で参加せず、この日は友川とTOSHIの2人だけだったが、それが結果的にレアな感じで、それはそれでよかった。永畑の情緒的なピアノがない分、ダイレクトに友川に干渉してしまうところをうまくコントロールした、酔っ払いのくせに細やかな石塚のアド=リブのリズム・ワークが深い。しかし、もし飲み屋に入ってこの人が1人で飲んでいたら、絶対に隣のテーブルには座りたくない。実はそんなTOSHIの怖いルックスがまた、オレは好きだ(昔から、オレは頭脳警察はPANTAじゃなくてTOSHIが好きだった)。

で、オレの座った場所からは、軽く眉間に皺を寄せて液体をあおる友川の引き締まった表情と、その後方には、茶色の眼鏡越しにまなざしがギラリと光るTOSHIの顔がほぼ一直線で見え、それはそれは写真に撮って飾っておきたいような光景だった。日本パンク史教科書の口絵の最初の方にカラーで載せたい絵である。

「春は殺人」~「少年老いやすくガクッとなりやすし」という素晴らしいオープニング(オレの大好きな2曲がいきなり頭から続いた!)から、TOSHIのドラム・ソロも友川の愉快なトークもたっぷりはさみ、アンコールの最後、中原中也の詩に友川が曲をつけた名曲「湖上」まで、2部構成、約3時間の素晴らしい時間だった。



帰りも東横線の学芸大学駅(アピア40の最寄り駅)を越えて田園都市線の方角へ、夜風を切って気分よく帰ってきた。ウィスキーでガツンと腹が減ったので、途中、246沿いの噂のラーメンの新店《蓮爾 さんこま店》に初めて寄ったが、このラーメン(と、みんな便宜上呼んでいるに過ぎない、知ってる人は知っている特別な、かつ凶暴な別の食い物)も、噂にたがわず実にパンクだった(で、かなりうまいが、正直なところ、食事というよりは、逆にカロリーをため込むハードなスポーツに近い)。

世田谷と目黒の閑静な住宅街をぷらぷら自転車こいで友川カズキを見に行き、帰りに《蓮爾 さんこま店》に寄る。一部のマニアは顔を真っ赤にして羨ましがるような都会的でスタイリッシュな秋の夜長の過ごし方であろう。なので、自慢したくてここに書いてみた。


(★11月7日から順次公開される頭脳警察のドキュメンタリー映画
3部作、全5時間14分。)