10.29.2009

韓国のギター工場労働者の話

■好きなアーティストの音楽にうっとりと聴き惚れるとき、そのミュージシャンの奏でるギターを作っている工場労働者たちが、よもやこんな風に搾取され、憤怒に打ち震えていようとは、夢にも思わない。

以下は本日送られてきたメイルだが、こういうのを読むと実に心が痛むし、複雑な気持ちになる。オレは肩書きに音楽評論家などとしたりするが、音楽なんぞを評論する前に、人間として伝え論じるべきことがあるんじゃないかと考え込んでしまうのだ。・・・少々ナイーヴ過ぎるか、とも思う。しかし、愛や恋やを歌う曲を奏でるその楽器が、労働者の哀しみや血と涙の上に削り出され、組み上げられて作られてるとしたら、一体どの耳がその音楽を楽しめるのだろう。甘酸っぱい歌メロに絡むギターを聴いて、口の中にしょっぱくて鉄臭いヘモグロビンの味がしてきたらどうだ?

もちろん、そんなことがあったからといって音楽が貶められるようなことがあってはいけない。だとしたら、音楽の歓びを心から享受するためには、それを享受したいと思う“ナイーヴな者たち”は、すべからくそのために“愚直に”闘わなくてはならないのではないか? なくなるべきは音楽ではなく、そのシステム= slave economy / slave master たちの方だ。

楽しい音楽を奏でるギターを作る人たちが、その音楽と同じように楽しい気分で日々を送れますように。
ナイキのスニーカー工場で働く人たちが、少なくとも、給料で楽々そのナイキのスニーカーが買えて、それを履いて楽しくスポーツができますように。
900円台やら600円台やらのジーンズを販売して得意げな日本のメイカーのお偉いさん方が、少なくとも、その工場の労働者が給料で楽々そのジーンズが買えて、それを穿いて自分たちのブランド・イメージ通りのライフ・スタイルを健やかに実践できている、あるいは同レヴェル相当のもっと趣味のいい生活を送れていることを、きちんとその自分たちの目で確認してくれますように。

前置きが長くなりました。以下、最後までがメイルの転載です。【転送歓迎】とありますが、そこからがメイルの中身です。(今日のエントリーに限らず、当ブログのオレの文章はすべて、一部分であれ全文であれ、出所さえ記してもらえれば、無断で好き勝手に使ってもらって一切構いません)。

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【転送歓迎】
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【東京、横浜のアーティスト、音楽家、活動家、物造り人、クリエーターの皆さん!連帯と創造的なアクションを呼びかけます。】

これは世界で流通している三分の一のギターを作っているにも関わらず自分たちの生計を立てられなかった人たちの話です。
皆さんはIbanez(アイバニーズ)、Fender(フェンダー)、Cort(コルト)もしくはParkwood(パークウッド)という(ギターメーカーの)名前を知っていますか?

彼らの工場は換気もされず、窓もなく"high productivity(高-生産力)"と呼ばれています。彼らは籠の中の雌鶏のように休憩もなく働き、結果的に体を壊したり怪我をしてしまいました。ある労働者は切断機で指を切り落としてしまい、別の労働者はマスク一つでヤスリをかけ研磨する作業によって慢性的な筋肉や骨の病気に苦しめられました。彼らの多くは通気のなく溶剤に満たされた塗装部屋で働くことによって気管支炎や喘息にかかってしまいました。彼らは残業手当もなしに働き、早き出勤して遅く帰宅し、過労のため工場で倒れてしまうことさえありました。そんなときは病院のベッドに臥せながら、ボスから辞表にサインをすることを求められました。

それでも、このような韓国の労働者たちは自分たちの手で作った真珠がちりばめられた煌めくギターを前にすればいつだって幸せだったのです。そしてそのギターは世界各国に輸出されていきました。彼らはプライドをもって10~20年の間、昼夜を問わず一生懸命働きました。ついに彼らは労働組合を 2006年に結成し、12年間で最高水準まで賃金をあげるに至ったのです。しかしそれは韓国で支払われる賃金のほとんど最低ラインに過ぎませんでした。

一方でコルト・コルテックの最高経営責任者Park YoungHoは7800万ドルの資産を築きました。今では世界の金持ち125位に彼はランキングされています。彼は1997年に新しい工場を中国に作った後、次第に韓国内での生産ラインを縮小し国外に拠点を移していきました。これは労働者に知らされることなく進められた計画だったのです。更に2007年4月に仁川(インチョン)では56人の労働者が解雇、大田(デジョン)での事業も秘密裏に終了させられ、三ヶ月後には残った67人の労働者も首になりました。会社の秘匿的で不法なリストラ方針への抗議の中、労働者の一人であるLee Dong Hoは2007年12月に焼身抗議をしました。しかしParkは雇用者の命を気にかけることもなく、2008年8月には偽装破産を主張して仁川の工場も閉じてしまったのです。それ以来、行き場もなく、非合法に解雇された労働者たちは閉鎖された工場を守り占拠することで抵抗しているのです。

昨年、彼らはソウルの川縁にある高架電塔で一ヶ月ハンガーストライキを行いました。彼らはコルト本社を占拠しようとしましたが、特殊訓練された警察に全員逮捕されてしまいました。おそらく労働者たちが警察署に引きずられ犬扱いされているその瞬間も、Fender、Ibanez、Cort、 Parkwood のブランド名が冠されたギターは世界中のどこかでラブソングを奏でていたでしょう。

今やそのメロディの音色は違った風に聞こえることでしょう。労働者たちはこの間の無頓着さや深刻な困難さをひどく不安に思っています。彼らは人々の無関心、疎遠さ、忘却に直面することを恐れています。

幸運にも、韓国の多くのアーティストやミュージシャン、アート・文化組織に属している人たちが労働者たちの運動を支援し、コンサートや展示会、ドキュメンタリー制作を行いました。また春にはドイツのアーティストとミュージシャンが世界楽器展覧会「Musikmesse 2009」で同じようなことをしてくれました。

(彼らの支援行動のビデオ)

私たちは皆さんに創造的な行動でCort社の不正義を世間に広めてもらえるようお願いをします。2009年8月にソウルの高裁では彼らが行った多くの解雇は非合法であると裁定されています。しかし会社は何も変わっていません。

幾人かの労働者たちが10月30日に東京に到着し、11月5日から8日に横浜で開催される「2009楽器フェア」に訪れます。私たちはとりわけ東京と横浜で活動するアートや文化グループに所属している人たち、メディアや社会変革のために活動している人たちに理解と支援を呼びかけます。私たちは望みます。皆さんの連帯と創造的な行動を。

■東京と横浜の人たちができる支援:

-連帯のためのライブ、街頭演劇、展示会
-行動やパフォーマンスのためのスペース確保
-横浜-東京間のナビゲートや運転
-韓国語-日本語の通訳・翻訳
-行動をともにする
-書いたり、記録したりする。ジャーナリズムやブログなど
-その他の創造的な方法で!!!!!

■問い合わせ先(日本)

■日本語で読めるコルト・コルテック闘争の記事