というのも、この出版は結構な危険を伴っているからだ。アラブ諸国の中でも最も西洋ナイズが進み、生活の自由度の高い国の筆頭にあるモロッコであっても、同性愛は最高3年の禁固刑に処される可能性がある“重罪”(刑法489条【同性間でのみだらな、あるいは自然に反した行為については、6ヶ月以上3年以下の禁固刑、および罰金を科す】)。つまり他のアラブ諸国同様に、明確に嫌同性愛の国なのだ。そして表向きには、いまだにモロッコ社会は“同性愛なんていうものはこの世に存在しない”・・・的な態度を取り続けている。
これは、そんな状況下に、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスセクシュアル)人権擁護の活動家集団によって落とされた“爆弾”である。で、その活動家集団〈Kif-Kif〉――“kif”が1つだとマリファナ/ハシシたばこの意味だが、2つだと“同じ”の意味。おそらく、ホモもヘテロも同じ人間、というメッセイジだろう――は、“オフィシャル”にはスペインのマドリードに事務所があって、そこに編集部がある(ことになっている)。こんな雑誌だから、外国で作らなくちゃいけないのだ。
一般的に、アラブ諸国のLGBTの人たちは、イスラム法の存在ゆえに決してそこから逃れられない根源的な“罪悪感”に苛まれて一生を送らなくてはならない。この雑誌の編集部は、なんとかそれを解消するための運動の一環として、一度は正面からモロッコ政府に雑誌の出版許可を申請したが認められず、それで、同国の首都のラバトで極秘裏にたったの200部だけ印刷してこういった“クランデスタン(不法)”な形で創刊した。
しかし、たとえ印刷製本されたのがたったの200部だとはいえ、インターネット上では無料でこの全19ページ(100%アラビア語)がpdfファイルでダウンロードできる(ページ左上、PDFアイコン)から、他のアラビア語圏のホモセクシュアルを巻き込んで、今後はイスラム教の原理(ファンダメンタリズム)に基づいている各国の法や“道徳観”に対して、少なからず目に見える脅威になってくることは間違いないと思う。
実際問題、この数週間で世界的にもこの話題はかなり浸透しており(『3軒茶屋40男辞典』に載るくらいだ・・・)、その好反応を受けて同誌の編集部は、次号でさらなる具体的タブー:モロッコで同性愛者の自殺率が、ヘテロのそれよりも遥かに高いという事実に踏み込む予定だという。
中身は全然読めないんだけど、でもこういう雑誌を作る人たちを心から応援したい。こういうのこそ、人間にとって“本当に”必要な雑誌だと思う。
(ソース:Rue89)